TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

阿南維也 青文様展  

 

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onariNEARで開催された阿南維也さんの初個展 青 文様展が終了いたしました。

この個展について、阿南さんの今回の作品がなぜ素晴らしいのかを最終日に連続ツィートいたしました。この場に、阿南さんとの会話を加筆して、記します。

昨年のことでしょうか。大分の阿南さんの工房へ初めて訪ねました。ちょうど東京の個展に作品を送ったところで、ほとんど工房には何も残っておりません。せっかくお訪ねしたのに、器を目の前にしてお話することができず残念に思いました。

しかし、その後に、とても不思議なことが起こったのです。


不思議な偶然と言いますか、ふとした一言での巡り合わせと言いますか・・。阿南さんの鎬(しのぎ)の仕事はなぜこんなにも誠実なのか、この線は最後までやり抜こうとする根気と、この作業が好きな人の手によるものですね、と伝えたら、彼は過去の修業時代に繰り返し描いていた文様のことを話されたのです。

それが染付の青海波の文様でした。そしてただ一枚残っていた過去に描いた小さな皿を見せてくれました。それは阿南家の台所か洗面所、他人の目に止まらない場所でひっそりと使われていたものです。その器自身、家族以外の人の手に包まれることなど、その瞬間まで想像していなかったことでしょう。

その器は経年のためか、染付の色はくすんでいましたが一目見て、素晴らしい仕事であることがわかりました。ともすれば神経質に感じてしまう連続文様が人間味にあふれて、温かいのです。その一枚を通じて話した時のやり取りが、阿南さんとの本当の意味の、出合いの時間だったように思います。

本当はこの仕事をされたいのではありませんか、と私は訊ねました。

その時の表情を、正直、しっかりと覚えているわけではありませんが、迷うことなく、「やりたいと思います」と彼は答えられたように思います。

阿南さんに個展をお願いしようと考えていた私は「阿南さん、この仕事をうつわ祥見で発表してくださいませんか」と提案し、今回の展覧会が実現したのです。

 

個展の搬入を終えた夜のこと、阿南さんは晴れやかな顔をされていました。

お話を伺いしました。

 

「僕の陶芸人生で二度目の転機になったと思います。

最初の転機はポンペイに行った時、遺跡を見て、帰ってきてから白磁がガラリと変わったんです。

知り合いの絵描きのおじさんが、お前、海外へ行ってこいと言われて訪ねた旅でした。

子供の頃から好きだったものとか、なんで好きなのか、わかったのです。雷に打たれたような衝撃を受けたのです。降り立った瞬間、一秒くらいでわかったような感じでした。

錆びた感じとか、壊れかけているようなものが好きだったんですね。鉄くずを集めたり。小学校の自由研究は古道具を集めたファイルだったりした。

本物を見て、どうしてそういうものに手を伸ばしたり、憧れたり、木くずとか鉄くずとか、時間が経って古びたものに手が伸びいていたのか、それがわかったのです。誤解を恐れずに言えば、それはきっと、多分、死への憧れなのでしょう。

今みたいにきっちりと作り出したのはそれからです。

青海波を描いている時は、頭の中は様々なことを考えて動いている感じです。手を動かしながら活発に考えている感じ。ご先祖さまのこととか、自分はどこから来たのだろう・・・とか、妄想ですね・・・」

描きだしていつ終わるんだろうというのは全くなくて、一枚の皿に2時間、3時間、8時間かけても、その時間は苦ではなかったそうです。

作家として初めて取り組み、10年ぶりに絵筆をとった瞬間は怖くなかったですか?との質問には、

「全く怖くなかったです。身体が覚えていたのでしょう、一筆めで大丈夫と思いました」との答え。寝る間を惜しんで描き続けた青海波。この個展にすべてを出しきり悔いはなし、とおっしゃいます。

 

作家が自身の湧き上がるものから向かう仕事には、何か言葉では表現しがたいエネルギーが作用するものです。その動機が純粋であればあるほど、素晴らしい仕事に結びつくものであることを改めて感じさせてくれました。

「作りたい」という熱情に勝るものは他にないのです。


かつて、村田森さんが京都の土を自ら掘り石を求め釉薬とし、初めて土物の器に取りくみ発表された個展の時のことを思い出します。当時ギャラリーとして信じて待つことしかできませんでしたが、その仕事の熱量は凄まじいものでした。
このことは『器、この、名もなきもの』に詳しく書きました。

そして今回の阿南維也さんの青海波の仕事は、白磁の器にも良い影響をもたらしたのです。文様を集中して描いている途中に「作りたくなって作った」という無地の白磁の器の色っぽいこと。何気なくて何でもなくて、非常に奥行きのある美しい白磁でした。その色気というのは創作として作れるものではなく、本来の阿南さん自身の色っぽさなのではないかと想像します。青文様を描きながら精神の高ぶりや、あるいは静かに躍動の時を迎えた時の作品が生まれたということなのでしょう。


作家として初めて発表された青海波、そしてその仕事のなかで自然と生まれた白磁の仕事。どれも「誠に」自身に向かわれた仕事でありました。よく応えて下さったと心より感謝しています。素晴らしい展覧会となりました。

 

道行く方々が初めて手にされ、その仕事に魅了され、お求めになられる方が多い展覧会でありました。

それはまさに、人を説得する仕事を阿南さんがなされたということの証だと思います。

 

真の展覧会とは山のようなもの、と思います。

作り手は作品をつくる準備をして山を登ります。足元を確かめながら山頂を目指し登り続けていきます。高い頂を目指せば山頂に登り見える景色も変わります。達成し、そして、そこから下山するのではなく、また新たな山を登り続けていくのが真の作家です。そういう作り手の仕事を私は心より尊敬します。お分かりのことと思いますが、作家にとって、作風を次々に開拓していくことは目的ではありません。トピックのように派手に目に見えるものではないので、わかりづらいかもしれませんが、作家は常に作品を通じて自身を掘り下げ内なる山に向かっているものです。

 

2016年10月、阿南維也 青文様展、

記憶に残り、そしてきっと次につながる素晴らしい展覧会でありました。

心より感謝いたします。

 

祥見知生

 

 

 

『うつわを愛する』に寄せて 

 

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河出書房新社から『うつわを愛する』がまもなく刊行されます。

春から取り組んできた仕事です。

 

このタイトルは実は数年前にも編集者の方に提案したのですが、その時には採用されなったことがあります。でも今回は他に候補を挙げることなく、すんなりと決まりました。

おそらく、世間のうつわ熱というもの (うつわブームのような現象)が出版社の方々にも認知され始めたのかもしれませんね。

 

「本当にうつわのことが好きなんですね」と言われることがよくあります。

取材などでは「好きが高じて・・・」と紹介していただくことが多いのです。 

好きというのは本当ですし、間違いではないのですが、

時々、好きなんてレベルではなぁーい、と言いたくなるのも正直な気持ちです。

好きと愛するはちょっと、レベルが違う・・・という複雑な気持ちでしょうか。

 

今回の本は昨年台湾で先に出版された『この器と暮らしたい』のために書いた文章をベースに新たに取材をした作り手の方々の紹介や、日頃うつわと接していて感じたことを書き下ろしたものです。

 

なかには、これまでの展覧会のDMで使用した写真も入っています。うつわ祥見のお客様にとっては、あれ、見たことある! と懐かしく感じられるような一枚があるかもしれませんし、作家さんの紹介の文章も知ってる知ってる!と膝を打つようなこともあるかもしれません。

これからうつわをもっと身近に感じ自分の手でうつわを選んでみようかという方にも、気軽に手にしていただけたら、とても嬉しく思います。

本の形はいわゆる単行本サイズで、これまで上梓した本のなかで器の本では初めての判型となります。装丁は岡本一宣さん。ご縁をいただき、お願いすることができました。美しく丁寧で、カラフルな一冊となりました。

 

小山乃文彦さんの章の終わりに、

小山さんから教えていただいた言葉を記しました。

「戦争に反対する唯一の手段は各自が日常を美しくし、それに執着することである。」

吉田健一の言葉です。

 この言葉に、今、とても共感いたします。

特に、文学者・吉田健一があえて選んだであろう「執着する」という言葉に

平和を諦めないことは自身の暮らしを丁寧に

そして手放さないことであることを静かに学びます。 

 

うつわを愛することは日々を愛すること。

この気持ちを一生持ち続けていたいと思うのです。

 

本はまもなく書店に並びます。

ご感想をお寄せいただけたら嬉しく思います。

 

いつもこの日記を読んでくださっている皆様に感謝しています。

今日も器とともに朗らかにいらしてください。

展覧会や常設で、皆様とお目にかかりますのを楽しみにしております。

 

祥見知生

 

 

 

目には見えずとも感じられる確かなもの。

 

国立新美術館SFTギャラリー「うつわ かたち」展(2016年6月29日〜9月5日) が終了いたしました。

お出かけいただいた皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

最終日、美術館の閉館を知らせるアナウンスを聴き遂げて、会場を後にしました。6月末より2か月以上にわたる長丁場の展覧会でした。

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展覧会は企画を考えて実際にオープンするまでに非常に時間がかかるものです。立ち上げからの準備期間は助走のようなもので、実際によその方には見えないのですが、その見えない部分で動いていた頃の、打ち合わせの数々、同名のタイトルの書籍『うつわ かたち』の刊行までの道のり、その道道での小さな積み重ねのことが懐かしく思い出されます。

展覧会は期間を限定して行われるものですから、限られた時間において現れる(企画者の意図で出現させる機会)のようなものですが、実際には、企画者の意図を超えて、この期間に出現した〈時間や空間〉が、ものがたりを深めていくものです。今回もそのことを実感いたしました。

会期中、一週間に一度、ギャラリーよりその週の動向を伝える週報が届きます。その際に、会場の様子や印象に残ったお客様とのやりとりや言葉を書きそえてくださるのですが、その言葉を読むたびに、来場者の皆様と器との出会いのシーンを思い浮かべ、心があたたかくなりました。なかには、小さなお子さんを連れた方が小さな手で自分が食べる器を選ぶような微笑ましい場面もあったと聞きます。また、日本古来の蚊帳に包まれた空間設計にも様々なご意見をいただきました。その多数はとても落ち着き、器をゆっくり見ることができたというご感想です。

 

今回はルノワール展やその他の公募展を目当てに美術館を訪れた方が偶然うつわかたち展で探していた器に出会うようなことが多かったようです。

沖縄や宮崎、愛媛など、遠方からのご来館者の方も多く、皆様、心からうつわとの出会いを喜んでくださっている声を多数お聞きすることができました。

そして、今回、SFTギャラリーでの企画展に初めてお声がけさせていただいた、和歌山で作陶されている森岡成好さんの力強い南蛮焼締の器に反応される方が多いのに気がつきました。空間の什器の和紙作家のハタノワタルさんも、森岡さんの器に初めて出合い感じられたことがあったとお聞きしています。

 

最近は、つくづくと、器が人を呼んでいるように感じます。

器自身が、自分を見つけてくれる人との縁を導いているような、不思議な感覚です。

それは目には見えずとも、流れては消えていく情報ではなく、実際に感じられる、確かなものです。

 

ひとつの展覧会が終わるたびに感慨深いのは、そういう器と人との出会いの場面がレイヤーのように重なった空間と時間がその限定の会期を終えて消えることの切なさや、短い時間に現れそして消えていくものだからこそ感じられるかけがえのなさに心が反応しているのでしょう。

 

展覧会は、器と人との出会いの場です。

これから永く付き合っていただくために、

そのきっかけとなる機会をこれからも真摯に作っていきたいと願います。

確かなものを大切にしていきたいと思います。

 

さて本展は、札幌の中心部にあるギャラリーにて、「暮らしのなかの、うつわかたち展」として巡回いたします。久しぶりの札幌での展覧会となります。

総勢22人の作り手の器をご覧いただきます。

なかには、書籍『うつわかたち』に掲載した実際の器も含まれます。

どうぞゆっくりと、この機会に器を手に取り、ご覧ください。

 

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暮らしのなかの、うつわ かたち展

会場 Kita Kara Galley

会期2016年9月9日(金)〜 9月17日(土)

時間10:00-19:00 (最終日17時まで)  日曜祝日休

札幌市中央区大通西5丁目大五ビルチング3階 TEL : 011-211-0810

 

出展作家

 

荒賀文成  石田誠  尾形アツシ 小野哲平  亀田大介  寒川義雄 

木曽志真雄 谷口晃啓 寺田鉄平 八田亨 光藤佐 巳亦敬一 村上躍 

村木雄児  森岡成好 森岡由利子 萌窯(竹内靖 竹内智恵) 吉岡萬理 

吉田崇昭 吉田直嗣 安永正臣

 

Kita Kara Galley

http://www.kitakara.org/content.php?id=6440

 

 

あ、いいなあ。 

こんにちは。

皆様、お元気でしょうか。

 

お盆やすみにご実家を訪ね、久方ぶりの水入らずの時間を過ごされている方も多いことでしょう。

それにしても、家族というものは、移り変わるものですね。

最初のかたちはどんどん変容していくのが普通です。

子の成長とともに、子が親になるのを、親は見守り続けるものですね。最近、早くに亡くなった祖母のことを考えます。私にとっては祖母ですが、母にとっては祖母は母であったことずいぶん時間が経って、やっと理解できたような気がしています。不思議ですね。

親子のかたちはそれぞれですが、その繰り返しで、家族という単位のありふれた、でもどこにも同じものはない、かけがえのない物語は連綿と続いてきたのではないでしょうか。そのことがいま、とても愛おしいのです。

 

さて、うつわの話をいたします。

 

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石田誠さんの紅毛手のうつわに夏野菜をのせて、昼食を作った時のことです。

みずみずしさを残して少しの熱で湯がいた野菜を青色のハットボウルにさっと手早く盛り付けて、テーブルに出してみると、なんていうのでしょう・・・

はっとするというよりも、少し穏やかな感覚で、

あ、いいなぁ、と思いました。

 

あ、いいなぁ。

 

この感じ。ちっとも大袈裟ではなくて、やわらかい感情なんですね。

 

息切れて頑張りすぎない、ふつうの感覚。

例えるなら、歩く速度の感覚、とでもいうのでしょうか。

 

人は頑張りすぎると、どこかに歪みが出てしまいます。

食事は毎日のことで、毎回手をかけるというより、

少しの工夫や心のあり方で、ずいぶん変わってくるものですね。

 

 

 

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改めて、この青のうつわは、素晴らしく気分が良いうつわでした。

あ、いいなあ・・・はこの先も、このうつわを使うたび、増えていくことでしょう。

 

さて、石田誠さんの紅毛手の魅力は、あたたかさと、ふつうさと。その気持ちの良さ。

そして、さすが、南蛮焼締を作り続けてきた方ならではと思うのですが、

この紅毛手のシリーズは土もののうつわとの相性が素晴らしくいいのです。

 

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鶴見宗次さんの手びねりのうつわと並べてみても互いを引き立てあっていることがわかります。この懐の深さがうつわの魅力をさらに増しています。

 

やがて季節は過ぎていきますが、生活のなかに美しいうつわを手に入れて、健やかにこの夏も過ごして行きたいものですね。

石田誠さんの紅毛手のシリーズは、一緒にいて気持ちが和らぎ、飽きることがなく付き合っていけるうつわです、うつわ祥見でずっと伝えていきたいと思います。

 

使ってみたいというお料理のお仕事をされている方がいらしたら、ぜひご相談ください。

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ただいま、国立新美術館SFTギャラリーでは「うつわ かたち展」を行っています。

今日ご紹介した石田誠さんの紅毛手のうつわもお手にとっていただけます。

22人の作り手のうつわをご覧ください。どうぞお出かけください。

 

「うつわ かたち展」

会場 国立新美術館地階 東京港区六本木7-22-2

会期 2016年6月29日(水)〜8月29日(月)

10時〜18時 (金曜〜20時) 火曜定休

 

 

ホームページでは、この後の展覧会情報を詳しくお伝えしています。

 

叢 器を纏う 東京
会期 2016年8月26日(金)~9月20日(火)
場所 CIBONE Aoyama

暮らしのなかの、うつわ かたち  札幌 
会期 2016年9月9日(金)~9月17日(土)
場所 Kita:Kara Gallery

村上躍ポット展 鎌倉
会期 2016年9月10日(土)~9月19日(月)
場所 utsuwa-shoken onari NEAR

『うつわ かたち』(ADP)刊行記念のトークイベントが行われます。

「 かたちの美しさをつくるもの 」
村上 躍(陶器作家)×祥見知生(著者)
■2016年8月28日(日) 14:00~16:00(開場 13:30~)
■開場:青山ブックセンター本店内・教室
■定員:50名様
■入場料:1,350円(税込)
■ご参加方法:ご予約は青山ブックセンターのオンラインや店頭のほか、うつわ祥見onariNEARにて承ります。

村上躍さんのポット展に先がけてのトークイベント、ぜひご参加ください。

 

 

 

うつわに浸る。

 

こんにちは。

早くも8月ですね。

お向かいのくろぬまさんでは、

毎年おなじみの花火の暖簾が風になびいています。夏の風物詩です。

 

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この時期の鎌倉というと、海が真っ先にイメージされますが、

緑に包まれる夏山の鎌倉もおすすめです。

紅葉で有名な瑞泉寺の葉の緑の深さは、

暑さを忘れる清涼の時間を感じさせます。

先日、久しぶりに鎌倉に会いに来てくれた旧友とともに訪ねました。

時間が止まったような静けさに、心が満たされました。

 

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さて、うつわ祥見onariNEARでは、

上半期の展覧会を終え、

ただいま常設展示を行っています。

 

粉引、刷毛目、白磁、鉄釉、染付、ガラスなど、

様々な作り手の表情豊かなうつわをご紹介しています。

NEARの常設の店内にいると、

いつも思うのですけれど、

この空間は、うつわが好きな方にとって、

うつわに浸る時間であってくれたら、と思うのです。

 

世間では実に様々なことが起こり、

情報も凄まじいスピードで流れていきます。

すぐにYESかNOか、答えを求められることも少なくありません。

でも、本来は、考えるというのは慎重なものです。

慎重深く、考えることは、人に生まれて授かった素晴らしい贈りものです。

どんなときも、考え続けることに価値を見つけたいのです。

 

少し、話がそれましたが、

NEARの常設では、

どのうつわも、すっと、立っています。

できるだけ多くのうつわたちをご覧いただきたいので、

大勢のうつわが並んでいますが、その全てに個性があります。

釉薬の流れ方、色合い、質感、かたち。

うつわの表情はどれも、豊かさに溢れ、見飽きることはありません。

その様子をご覧いただけらと思います。

 

外の暑さや喧騒を忘れ、

ゆっくりとお過ごしください。

ひとつひとつ、うつわをお手にとって、

出会いを楽しんでいただけたらと思います。

 

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夏は、色とりどりの野菜が旬の香りを運び、食卓に賑わいを見せてくれますね。

夏の盛りならではの、美味しいものと、うつわと。

忙しい時もあるでしょうが、できるだけ気持ちにゆとりを持ち、

ゆったり、食事の時間を愉しみたいものですね。

 

WEBSHOPでは、常設展示とリンクをさせた様々なうつわをご紹介しています。

お時間のある時に、どうぞ、ゆっくりご覧ください。

 

うつわ祥見 web shop

 

ルノワール展が話題の国立新美術館、SFTギャラリーでは

「うつわ かたち」展が好評開催中です。

どうぞお出かけください。

 

うつわ祥見onariNEARの夏休みは8月15日〜8月18日です。

この4日間、午後の遅めから夜にかけて「夜NEAR」を開く予定でいます。

そのことは、また、ご報告いたしますね。

 

どうぞ、この夏も、うつわとともに健やかに、お過ごしください。

 

 

 

 

うつわ かたち

 

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みなさま、大変ご無沙汰をしておりました。

今年春より二冊の本づくりがはじまり、撮影や取材、言葉を書く仕事をしていました。一冊めは『うつわ かたち』(ADP刊)、二冊めは『うつわを愛する』河出書房新社刊)10月発売です。

 

国立新美術館 SFTギャラリーにて、「うつわ かたち展」が初日を迎えました。本ギャラリーではこれまで、「TABERU」「うつわ、ロマンティーク展」などの展覧会をディレクションさせていただいてきました。

 

うつわ かたち展は、

碗、茶器、片口、皿、鉢。

そっと、手に包み、感じるかたち。

心に残る美しさのあるかたち。

やわらかな布で包まれる空間で、

うつわと向き合い、うつわを感じる。

22人の作り手のうつわをご覧いただく展覧会です。

 

展覧会の様子をこの場でもご紹介しながら、本展の企画についてお伝えしようと思います。

 

本展覧会において、うつわという言葉のひらかなの響きがとても重要でした。

うつわというやわらかな響きは、心のなかにそっと触れる母性を感じさせる言葉です。そして、かたちという言葉。器形(きけい)では見落としてしまう何ものかをこのタイトル〈うつわ かたち〉に込めました。さらに、重要なのは、このふたつの言葉の間にある〈 〉です。これは空白の間であり、呼吸の間でもあります。

 

今回の展覧会では、空間設計コンセプトを建築家の北原暁彦さんが手がけてくださいました。什器は和紙作家のハタノワタルさんの作です。

展示コンセプトは、うつわをやわらかく包む。うつわのかたちがそっと浮かび上がるようなイメージで、日本で古くから伝わる蚊帳を作り続けている丸山繊維産業株式会社のご協力を頂き、やわらかな薄布で包まれた優しく、そして静けさのある展示空間を作りました。

和紙を設えた什器とシンプルな照明で構成された空間は、器とゆっくり感じていただく空間です。地階にあるギャラリーに向けて、一階から降りてくると、布空間外部から展示の様子がうっすらと透けて見えます。その見え方は見る角度によって刻々と変化します。見え隠れする器のかたちをご覧いただけるでしょう。

 

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布で包んでいるものは展示空間ですが、見る人の心に作用する〈 〉の空間でもあります。この〈 〉から響いてくるものは、心を静かにしなくては感じられない何かかもしれません。

ふだん、うつわは使うもので、使ってこそうつわである、とお伝えしてきました。しかしながら、ただ使うものではないことは、この日記を読んでくださっている方は気がついていらっしゃることでしょう。

 

うつわは心で感じるものであること。

 

設計の北原さんとハタノワタルさんが実現したこの空間は、まさに、この言葉を立体的に表現してくださったもの、と思います。感謝しています。

ぜひ、布のなかに入り、優しく包まれる展示空間のなかで、器を手に取ってゆっくりご覧いただければと思います。

 

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もうひとつ、今回の展覧会のコンセプトのひとつに、慎みという言葉があります。

いま、何かと大きな声で主張することが多い時代において、慎みという言葉には新鮮に感じられるのではないでしょうか。粗末にあつかってはならない大切なことが含まれているように思います。手でやわらかく器を包むときに感じる〈つつむ〉という言葉と〈つつしみ〉というふたつの言葉が、重なり心に響いてきます。

つつしみとつつむ。書籍『うつわ かたち』においても、このふたつの言葉が、うつわというものを表現するうえで、大切な言葉となりました。

 

この本の構成はシンプルなものです。碗、皿、鉢、茶器、片口・・・それぞれの扉に短い言葉を書きました。

 

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碗は掌で包むかたち。

慈しみ、いただくかたちを基本とする。

慎ましく繊細な、感謝をあらわす

美しいかたち。

                       『うつわ かたち』碗より

 

 

それらの言葉が風のようにやわらかさを包み、読者の方に届いてくれたらと思います。

うつわの写真は手触りのある紙に写され、控えめな姿をしています。仄かな空気感のなかで、気配や余韻が残るような、印象的な表出をした頁もあります。薄いヴェールのなかでそっと存在するような、〈うつわのかたち〉を見つけていただけるかもしれません。

 

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書籍『うつわ かたち』祥見知生編著はADP(Art Design Publishing)より刊行されます。一般書店より早く、7月4日より美術館にて先行発売となります。青木亮さん、村木雄児さん、小野哲平さん、村田森さん、横山拓也さん、村上躍さんなど作家28人のうつわ100点を紹介、英日バイリンガルのテキストには、村木雄児さん、村上躍さん、尾形アツシさんのインタビューが掲載されます。生前厳しく器を作られた青木亮さんの器は薪窯焼成された作品を掲載しています。

出版元のADPは、これまで石本泰博氏、葛西薫氏、杉本博司氏などの著作をはじめ、数多くのデザイン・建築分野の書籍を世に送り出しています。

http://ad-publish.com/kikan.html 

同出版社において現代作家もののうつわの本は初めて刊行となります。

佇まい豊かに、奥行きがあり、静かな一冊になりました。

作家別の掲載作品のインデックスと作家紹介が別刷で付いています。

うつわは人が生きていくために生まれ、本来、気高く、慎みに満ち、美しいかたちをしています。〈うつわ〉を感じる一冊となってくれたらと願います。

どうぞお手に取ってご覧ください。

 

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『うつわ かたち

UTSUWA KATACHI-JAPANESE CERAMICS AND FORMS』

 

誘うかたち、余韻のあるかたち、掌をあらわすかたち、

碗、皿、鉢、茶器、片口、徳利など、

現代作家28人のうつわ 100点を紹介。

 

青木亮  阿南維也  荒賀文成  石田誠  尾形アツシ 小野哲平

小山乃文彦 亀田大介 寒川義雄 木曽志真雄 郡司庸久 谷口晃啓

田谷直子 鶴見宗次 寺田鉄平 八田亨 巳亦敬一 村上躍 村木雄児

村田森 森岡成好 森岡由利子 矢尾板克則 安永正臣 横山拓也

吉岡萬理 吉田崇昭 吉田直嗣   

 

 

著者:祥見知生

撮影:西部裕介 ブックデザイン:橋詰冬樹

プリンティングディレクション :熊倉桂三 ( 株式会社山田写真製版所 )

テキスト:バイリンガル 日本語・英語 別冊差込:掲載作家紹介

サイズ:273mm×215mm / 160頁:作品頁 フルカラー/並製本、ジャケット装

定価:本体3,500円+税 ISBN978-4-903348-48-3 C0072

発行:株式会社ADP | Art Design Publishing http:// www.ad-publish.com

 

 

「うつわ かたち展」

会場 国立新美術館地階 東京港区六本木7-22-2

会期 2016年6月29日(水)〜8月29日(月)

10時〜18時 (金曜〜20時) 火曜定休

 

出展作家  (敬称略)

荒賀文成 石田誠   尾形アツシ 小野哲平 

 亀田大介 寒川義雄 木曽志真雄 谷口晃啓 寺田鉄平 八田亨

光藤佐 巳亦敬一 村上躍  村木雄児 森岡成好 森岡由利子

萌窯(竹内靖 竹内智恵) 吉岡萬理 吉田崇昭 吉田直嗣 安永正臣 

 

空間設計 北原暁彦(コムレール一級建築士事務所)

什器 ハタノワタル

展示協力 丸山繊維産業株式会社 株式会社丸東

写真 西部裕介

タイトルデザイン 橋詰冬樹

 

ディレクション 祥見知生(うつわ祥見)

 

 

 

見つめ、見つめられる、壺を。

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何をしていても、心のなかで、いつ何が起こるのかわからない時代に生きていることを実感いたします。
 
こんなとき、小さな人間の、無力さを感じずにはいられません。
 
わたしたちの祖先も、いつもこのことに怯え、憂い、悲しみ、一方で些細な日常のなかに喜びを感じ、大いに笑い、慰められ、絶え間なく続く時間を生きてきたのかもしれません。
 
いまできることが、いかなるときも大事ですね。
限りのある時を、いかに生きていくのかが、問われています。
 
うつわ祥見onariNEAR 尾形アツシ展を行っています。
 
初日、尾形さんが在廊されました。
 
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店内奥の棚によく焼かれた壺が目に入ります。尾形さんの有する薪窯焼成された力強く、複雑で豊かな表情があり、眺めるたびに見どころを発見できる美しい壺です。
 
今日は壺の話を書きたいと思います。
 
壺の起源は古く、小山富士夫の『壺』という本に、
古今東西、世界各地に伝わる素晴らしい壺が紹介されています。
 
わたしは時々、この古い本を手にして、
これらの壺の世界に見入ります。
 
作られた時代の背景や、作り手のおかれた状況や、なにもかもがつまっている壺のことを、タイムカプセルのようなものだと思うのです。
壺はどこか、慄然として、何かの力をもって出現した「モノ」のかたちを有しております。言いようのない説得力があり、見る者を魅了します。
 
悲しみや怒り。不安。自然への畏怖。
それらを沈める力をもっているような、力を、壺といううつわに感じるのはなぜなのでしょう。
 
そのあたりはもっと、言葉を尽くして、語りたいところです。

壺を生活のなかに取り入れる。
その壺は力強く、わたしの生きることを見つめるもの。
壺を見ているようで、
人は、壺に投影される自分の生命を見ているのかもしれません。
壺がわたしたちを見ている。
そんな感覚を覚える壺。
そんな作品に、人生のなかで、出合えることは、幸せなことだと思うのです。
 
壺は人の生活のなかで、どうしても必要ということではありません。
 しかし、この、行き先のわからない現代だからこそ、壺という存在を身近に置きたいと。
 
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薪窯で焼かれた土の壺は、無言ながら多くを語っています。
堂々として、ゆるぎなく、美しく存在しています。
 
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ぜひ、鎌倉にお出かけになり、
尾形アツシさんの壺を、じっさいに間近に感じてください。
 
わたしたちの生活に、きっと、
そういうものが必要なのだと、
いま、そう感じています。
 
またこのことを書きます。
 
今日もお元気で。
わたしも仕事をいたします。