TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

DVDブック「うつわびと小野哲平」


晴れた冬の一日。
今日もほとんど外出をせずに原稿書きをしています。

DVDブック「うつわびと小野哲平」は映像と活字、DVDと本という異なる二つの表現が合わさり一つの世界をつくる新しい本のかたちです。

DVDに付随している冊子ではなく、ブック部分もそれだけで書籍として成立するような本を目指しています。

台本や演出の手法があるフィクションと違い、このDVDブック「うつわびと小野哲平」映像はまさにノンフィクションです。


この一年、カメラマンは大掛かりな撮影装置は一切持ち込まず、身体一つカメラ一台で淡々とその場で撮り得る「出来事」を記録してきました。ロクロを挽く姿であったり、薪窯であったり、展覧会の準備であったり。ものづくりの友人と夜を徹して「美しいものとは何か」を語る姿でもありました。


何も包み隠さずダイレクトにに伝える「映像」ともに成立する活字として、「本」に多くのページをさいているのがロングインタビューの文章です。


この一年、高知、東京、奈良、神戸とさまざまなタイミング、さまざまな場所で小野哲平さんに話を聞きました。


何かの文章にも書きましたが、小野哲平さんは決して多弁な方ではありません。


その言葉は非常に「身体的」なものから発せられる言葉で、言葉の一つひとつにずしりと重みがあります。口先だけで思ってもいないことを喋る方ではないのです。


そして問いに対してより正直に答えようとする。心に嘘をつかずにどれだけ正直に答えられるのか……インタビューは自身の内側にあるものに深く沈みこんで言葉を捜す作業の連続でありました。


3万語に達するロングインタビュー。


修行時代の葛藤、アジアの国々への旅、そして高知の棚田の広がる山のてっぺんの暮らし。薪窯、器づくり、生きるということ……。


原稿を書いていて、胸の底に、思うことがあります。


それは私が初めて高知の工房を訪ねた時のこと。
夕刻の工房で午前中に挽いた器の高台を削る作業をしていた哲平さんに、私はこどもの器の話をしたくて、工房の壁に貼ってあったポスターにあった「命」という言葉を口にしたのです。その時哲平さんはきっぱりと「ぼくは命という言葉は使いません」と言ったのです。


「命」が軽く扱われている現代に毅然とNOと言うように、「命という言葉は使わない」とはっきりと言ったその言葉が工房に響いたあの日のことを、私は今も忘れることができません。
きっとあの時、私は、真の意味で「うつわびと小野哲平」に出会ったのでしょう。


あれから数年経った現在、私は彼の言葉を伝える文章を書いている。小野哲平といううつわびとの言葉をできるだけそのままに伝えたいと願っています。



『DVDブック うつわびと小野哲平』については、
オフィシャルサイトhttp://dvd-teppei.comをご覧ください。

動画のデモ映像を見ることができます。