TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

 偉ぶらないものを

昨年、イチカワヨウスケさんとの共著『やさしい野菜やさしい器』の出版イベントを沼津、大阪、福岡、札幌で行いました。


その折、札幌の紀伊国屋書店の会場でのこと、訪れた方からの質問で、こんな問いかけを受けました。


「あなたの選ぶものの基準はどんなものですか、器を見て、何をよいと感じるのでしょうか」言葉ははっきり覚えていないのですが、そんな質問であったと思います。


わたしはその問いかけに「偉ぶらないもの」という言葉を使って、自分の美しいと思う器について説明しました。質問をされた方は、何年か続けて札幌で行った器展へ足を運んでくださり、村木雄児さんの器を初めて求めて使っていた方です。


実はこの問いかけは、同じ年に、違う場所で訊ねられたことがあります。


問いかけをしたのは、昔ながらの方法で美しくあたたかな紙を漉いている方でした。
「あなたの選ぶ器に共通なものはありますか」とその方は訊ねたのです。
わたしの答えは「偉ぶらないもの、なんでもないもの」でした。


「偉ぶらないもの」とは、自意識の向こうにあり、大げさに語るものではなく、ある意味「作家性」というものの対極にあるようなものです。


作家の個性というものを超えたところににじみ出る器のよさ、それはとても静かなもので、使うたびに、しみじみとして「よい器だ」と感じられるものです。


民藝の思想につながる言葉に「誠実、健全、簡素、自由」がありますが、それらの言葉には、芸術のための芸術の不健全な「美」の基準や、名誉や金銭などの欲得で作られたものへの、強く抗する気持ちがあったように思います。


巷でささやかれる「アノニマス」という言葉で括られるような「静的」で「人工」的なイメージばかりのものではなく、
「偉ぶらない器」とは人間のおおらかさに裏打ちされ、確かな生命力にあふれ、人の「生」を支える力のある器、日々使われるなんでもないものの美しさのある器です。

そんな器をわたしは伝えたいと考えています。



お知らせ


うつわ祥見では6月7日〜15日まで 『巳亦敬一ガラスのうつわ展』を行ないます。くわしくは、うつわ祥見ホームページ http://utsuwa-shoken.com



セツローさんのスケッチ展が、6月12日〜17日まで 鎌倉のアトリエキカで 行われます。
くわしくは、うつわ祥見のホームページをご覧ください。

http://utsuwa-shoken.com


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