実(じつ)のあるもの
深夜、開けた窓から虫の音が聞えています。
鈴虫のりんりんというリズムカルな音と、呼応するようなジジジという音。
自然の営みの音は、いくら聞いていても飽きることがありません。さいきん、秋の澄んだ空気のなかで見上げると、夜空の月が美しくて、まことによい気持ちになります。
先日、能登半島の輪島へ行ってきました。
伝統のある輪島塗の塗師屋さん 蔦屋漆器店の蔵ギャラリーで、笛奏者雲龍さんの演奏が行われたのです。
能登地震で倒壊した蔵を、昔ながらの技法を守り、土壁を再現したその蔵は、職人の心意気や、蔵を想う家人の確かなこころが見事に重なって、息を呑むほど美しい品格がありました。
蔵の空気は何よりも心地よく、まるで、生命の故郷・胎内に包まれているかのように感じました。
それは、新建材で囲われた新しい建物が、どれだけ贅をつくしたところで、到達できない「確固としたもの」の美しさでした。
そしてそれは同時に何代にも渡って守り続けてきた輪島塗の家の伝統というものの、目に見える一つの姿であったのかもしれません。
そのことに、深く感動した旅でした。・・・・能登は特別なご縁があり、ずっと気になっていた土地ですが、11月には、ごはんのうつわ展で再び伺う「約束」の場所でもあります。
いま世間では、アメリカ大手の金融機関の破綻から世界を揺るがす金融不安が広がっている、と連日ニュースが流れています。
破綻した金融会社は、お金がお金を生むマネーの春を謳歌していた、とキャスターは言います。
そんなニュースを聞いていても、遠くの出来事のように思えるのが、そうした錬金術のような投資という考え方に、どうしても馴染めない自分の性質もさることながら、予感として、時代が、そうしたマネーゲームのようなものの「虚」から、生きるということに直結する「実」(じつ)に、すべてが向かっているように感じます。
生きることに向かうということ、これは、言葉を変えれば、「食べる」ことを見つめることにほかなりません。
「実」(じつ)のあること。
その目を持って、世界を見渡したいと思いますし、その思いで仕事をしていきたいと願っています。
もうすぐ、「ごはんのうつわ展」が福岡からスタートします。
ぜひ、お近くの会場へお出かけください。
9月20日(土)〜9月28日(日)福岡・クラフトの店梅屋
10月4日(土)〜10月11日(土)明石・ギャラリー風来
10月25日(土)〜10月26日(日) 高知・高知県立牧野植物園
10月27日(月)〜11月7日(金) 花と器SUMI
11月3日(月)〜11月15日(土) 東京・馬喰町ART+EAT
11月8日(土)〜11月15日(土) 輪島・うつわわいち
村木雄児陶展 2008年10月10日(金)〜10月17日(金)
11日土曜日は、村木さんが在店予定です。