TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

今日の一日に

今日は鎌倉は、「よいお天気ですね」と言う挨拶を、世界中の皆さんに笑顔で交わしたいくらい、よいお天気でした。

よいお天気というのは、ただ晴れているのでもなく、ただ陽射しがあるのでもなく、湿度も、肌に感じる風も、雲の流れ具合も、なにもかも、気持ちがよいという好日なのです。こんな日はめったにあるものではないですね。

2005年に『うつわ日和。』という本を初めて書きました。

そのあとがきの一行めに「日和という言葉は、穏やかに晴れた天気。好晴という意味があります」と書きましたが、まさに、今日こそ、この日和という言葉がぴったりくるお天気でありました。

村木雄児さんの器展の、もう4か目です。

そして、今日は、わたしの誕生日でした。

今まで45年生きてきて、自分の誕生日の天気がどんなだったか、実はほとんど覚えていません。


昼に用意したトマトと茄子のパスタをデッキで食べながら、秋空を見つめて思いました。

「今日の誕生日のお天気を、ずっと覚えているだろうな」と、いくぶん神聖な気持ちで。


朝、札幌の姉から小さな包みが届きました。

中にはネックレスとハンカチと古布が入っていました。そして、もう一つ、おまけのように大島弓子さんの本『ロストハウス』が一冊入っていました。

わたしは大島さんの作品が好きです。この本は何よりも嬉しい贈り物です。

高校生の時だったでしょうか、彼女の『バナナブレッドのプディング』に出合い、衝撃を覚えたのです。

あとで、彼女の世界は、いわゆる通好みの人にかなり浸透していることを知りましたが、当時は、この世界を分かち合える友人は皆無でした。
まわりの友達は、みな、インベーダーゲームに夢中でしたから(時代が分かりますね。ちなみに、わたしはこのゲームが全くもって嫌いでした。きっと、お金を吸い取る機械にしか思えなかったのでしょう、皆が同じような顔をしてゲームしている姿は不気味に思いました)

今回、姉がたまたま入れてくれた『ロストハウス』に収録されている作品は初めて読む作品です。

最初に収録されている『ジィジイ』という作品は、高校生が主人公で、その祖母が「今から七日目の二十四時にこの世は終る」と予言したことからお話が始まります。

最後の終り方まで、「うまいなぁ」と思える構成、うーむ、いつものことながら深いですね。

いつもはあまり私的なことを書かずにおりましたが、

今日はわたしの誕生日なので、ちょっと器の話からズレタことを書きました。

「なんでもない日 おめでとう」という不思議の国のアリスの不条理が不気味で恐かった子供時代、友達には理解されずに大島さんの世界に浸った十代後半があり、誰かの言葉を伝えたくて文章を書いていた二十代があり、いまは、何よりも愛している器を伝える仕事をしています。

この、鎌倉のはずれの小さな場所で、本当に心から愛する器を伝えられる。幸せに思います。

今日も、初めて訪ねてくださった方、いつも足を運んでくださる方々と、器を通じてお話ができました。嬉しいことです。


11月に出版する『日々の器』(河出書房新社)。

この本の「お茶の器」という章のなかで、「日々のなかにこそ、まことがある」と書きました。今日も明日も、そうやって、まことの中に身をおき、生きていきたいものです。


村木さんの器 眺めていると穏やかになり、しみじみとします。

一客の器に、偉ぶらない、抗しない、静かなものが宿っています。
今日は粉引き小皿を眺めていて、「日本の四季」を感じました。つまり、春から夏へ、夏から秋へ・・・その区切りのない季節の移り変わりを、粉引き皿のなだらかな形、微妙なグラデーションの肌の色、ふくよかな手取りから感じられたのです。なんと豊かなことでしょう。

展覧会は17日まで。

ぜひご覧ください。


ただいま 下記の日程で「ごはんのうつわ展」を行なっています。

ぜひお近くの会場へ足をお運びください。
どの会場にも、初日、在廊いたします。


10月25日(土)〜10月26日(日) 高知・高知県立牧野植物園

10月27日(月)〜11月7日(金) 花と器SUMI

11月3日(月)〜11月15日(土) 東京・馬喰町ART+EAT

11月8日(土)〜11月15日(土) 輪島・うつわわいち