TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

 尾形アツシ 陶展によせて

こんばんわ。

今日は、全国的にあたたかな陽気となったようですね。

この季節は、家主に忘れられて転がっていた植木鉢から、
若々しい芽がひょっこりと顔を出し、陽射しにむかって、
ぐんと、伸びてきているのを見かけます。

そういう植物の、ふいにあられた力強い命を感じますと、
からだの細胞が喜んでいるのでしょうか。
自然と、からだ、手足、背筋、腰のあたりまで、ぐんと伸びをしたくなります。

窓を開け放して、呼吸を深めて、前に向かっていきたくなります。


さて、ただいま、
うつわ祥見のディレクションで 東京・国立新美術館地階 SFTギャラリーで『MESHIWAN 贈る器』展、
北海道・札幌では『吉田直嗣 白と黒の器』展が行われています。

そして、今週末 4月14日からは

鎌倉御成町の「onari NEAR」で

奈良で作陶されている尾形アツシさんの展覧会が始まります。

この数日、尾形さんの最近のお仕事について 文章を書きたいと思っていました。

少しわかりにくいことも あえて 書きますが、

ぜひお付き合いください。


尾形さんとは、故・青木亮さんのご紹介で出会ったのです。

初めてお会いしたのは、瀬戸の陶磁資料館です。

そのことは拙著『日々の器』にくわしく書きました。

初めてお会いしたときに、感じられた印象は、その後少しずつ変わってくることがありますが、
尾形さんについては、まったく、変わることはありません。

「天職」のことを英語では「コーリング(calling)」とか「ヴォケーション(vocation)」と言うそうですね。
どちらも原義は「呼ばれること」です・・・と内田樹さんが最近「仕事力」のコラムで紹介していらっしゃいました。

世の人々は自分探しに熱心なようですが、実は、適職などなく、仕事は、「呼ばれるもの」だということ。

天職はプロの道を究めていく役割があるようです。

そして、いま、この危機的な国の状況下で、プロの仕事は、まさに求められているようです。

昨今、器はあまりにも、無防備すぎました。

デザインはたしかに素晴らしい、けれど、土に対する「敬い」が足りない、いや、そのことを感じさせない「手前」のものが「流通」している。

遠慮なく書かせていたただければ、何事も「手前」でいるほうが、楽なのです。

奥にあるものと付き合わなくて済みますからね。

少し乱暴に言えば、この近代以降の日本はそういう時代だったのではないかと思います。

安易にお手軽に、「奥にあるもの」に触れずに、心地よさが求められていたのではないでしょうか。

「心地よい」というキーワードは必ずしも悪者ではありません。しかし、何かが、違ってしまったのです。

器という名のつくものが、生き生きと語られ、人びとの暮らしを支える力強さを、取り戻す、そういう仕事がいま必要なのだと感じています。

まさに、「奥」に触れることを恐れない天職のやきもの屋が、どうしても、必要なのです。


尾形さんの仕事は、土に向き合う仕事です。「奥」にあるものに怖がらずに触れて、初めてあらわれる仕事です。

まさに、土の仕事、と呼ぶにふさわしい仕事です。



やきものに深く開かれたこころが土に向かう仕事をすると、こうなるのではと思うのが尾形さんの最近の仕事です。

かたちも、焼き方も、手取りも、器として、やきものとして存在が この数年のうちに、際立ってきています。

しかも、それは、ひとつひとつ、石を積み上げるように「わかる」ことを身体で身につけて 探求していくやり方なのですから、
確かなのです。

土に関わる、すべての仕事が、器という形となっていくこと。


少しわかりにくいかもしれませんね。

ここはやはり、うまく言葉にするには、もう少し時間が必要なのです。

しかし、ひとつ言えるのは、尾形さんが追求しているやり方は、
やきものの探求として、決して近道ではない道どりであったということです。
 
一歩一歩 丹田に力を入れて歩くことで 進んできた強みが
いまの尾形さんの器なのでは、と感じています。


薪窯の焚き終った日に、尾形さんから次のような言葉が届きました。

「ガス窯なら一時間で済むことが、火を見つめ続けること数十時間、なぜこんな苦労をするのか?

 その原点を、薪窯は、知らしめてくれます」


「こんな苦労は、今の時代にあってむしろ贅沢な試みかもしれません。その成果がきちんと出ますように」と。 


いま、こうして書き記してみても、わたしはこのとき受け取った言葉の重みを感じます。




以下は、皆さんにお送りした DMに書いた言葉です。



 土がこうなりたい、という声を聴く。
土のもっている個性に逆らわずに器を作る。
刷毛目、粉引を中心に、土の仕事を丹念にかたちにされている。
肌の美しさ、おもしろさ。尾形さんが作る器には独特の表情があります。
一年ぶりの個展です。ぜひお出かけください。


DMの器の迫力あるめし碗は圧倒されるほど、力強い顔をしています。

しかし、皆さんが実物をご覧になれば、この器のもうひとつの魅力に気付かれることでしょう。
この、硬く焼き締まった器の、穏やかな品格を、感じになられることでしょう。

それは、まるで、菩薩のような。土のあるべき姿を感じられるかもしれません。


土に向かえば、あまりにも自然で、あまりにも難しく、あまりにも優しい「何か」に、触れるのかもしれません。

飽きないもの、頼りがいのあるものは、とてもシンプルなものです。

それは見事なまでに、心の奥に、真の「心地よさ」として、届くものです。



この展覧会のために、焼かれた、新しい器は、明日、鎌倉に届きます。

わたしは準備を整えて、到着を待っています。

皆さんもぜひ、お出かけください。

4月14日初日に尾形さんが在廊されます。

ぜひ、お出かけになり、この土の仕事をご覧ください。

この機会に、尾形アツシさんの仕事を感じてください。

こころより、お待ちしています。


尾形アツシ陶展

2012年4月14日(土) 〜4月23日(月)
12:00〜18:00 会期中休 4月17日(火)
作家在廊日 4月14日(土)