TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

『村田森展』によせての言葉


「7月7日はいざ鎌倉へ」。

 この合言葉とともに、皆さんに、この展覧会にぜひ足を運んでいただきたいと願ってきました。

 村田森展 鎌倉芸術館

 2012年7月7日〜7月9日までの3日間だけの展覧会です。

 この展覧会をともに作りあげて欲しい・・・と願ってきました。

 いつも言うように、一緒に「展覧会」という山を登ってください、と。

 作り手、使い手、そして伝え手。

 この三者が別別の道から、頂上を目指して歩いていく。

  頂上とは、展覧会の初日です。

  そして、そこには、きっと、多くの「想い」があらわれ、そこにしか現れない「素晴らしい何か」が待っている。

  そう信じて、「7月7日は鎌倉へ」と、くり返し皆さんにお伝えしてきました。

  その七夕が、もう、あさってと、いよいよ近づいてきました。

  今夜、京都からまもなく、村田森さん自身と、作品たちが、鎌倉に向かって出発します。

  わたしはこの展覧会に向けて書いた文章を、ここに記したいと思います。

  DMをお送りしている方にお送りした文章に少し加筆しました。

  
ごあいさつ


村田森さんは京都に生まれました。
京都には、無数の眼があります。
人の眼もそうですが、ものの眼、とでもいいましょうか。
真贋を見抜く、鋭く、厳しい眼です。
そしてそれは、人を育てる眼でもあります。

大学でやきものを学んだあと、修行時代を経て独立し、「村田製陶所」の看板を掲げ、
京都の食文化を支える器を問屋に納める仕事をはじめました。
その後、見えない何ものかに駆り立てられたように、やきものに向かい、
作り手「村田森」として作陶にはげみ、こんにちに至ります。
いま、村田森の作る器は多くの人を魅了しています。
なかでも天賦の才が見事に生かされた絵付に人々は心を奪われました。
その絵柄は身近なものを題材とした大変あたたかなものです。



絵付けは最近では仏シリーズや、紳士淑女の風刺など、
筆の味わいはいよいよ批評精神に富み、洒脱で、軽快、飄々、生き生きとした絵柄が器のうえに息づいています。

染付、白磁、粉引き、黒釉、三島・・・。作風は多岐にわたります。
ひとりの作り手が生み出す域を超え、関心が向くまま情熱的に作品は生まれてきます。

ときには導かれるような出会いが、その後の作品に影響を与えることもしばしばです。
たとえば、展覧会で九州へ出向いた折に立ち寄った唐津では、想像力を駆り立てる美しい陶片に出会い、
土の器への想いを強くします。そして思います。
唐津にやきものの土があるように、京都にも土があるはずだ」と。
そして、唐津より京都に戻った翌日から、地質の地図を手に土を探し、釉となる石を探しはじめます。


自ら掘った土を水肥し、石を除き時間をかけて「土づくり」をします。
その土で轆轤をひき、探し当てた長石を砕き、釉薬とし、
それらのオリジナルの材で器を作り、薪で焼成します。


それらの仕事は、あらゆる手軽さを排除し、本質に向かおうとするものです。
徹底的なものです。よい器を作りたい一心から、村田森という作り手は、
気の遠くなるような地道な仕事に邁進するのです。




一方、古いやきものに心を通わせ、手を動かします。
「型ひとつ取っても、なぜこんなに複雑なことをしているのだろう」
古染や、古伊万里など、古(いにしえ)の陶人がひたむきに取り組んだ仕事に敬意を払い、熱心に「写し」ます。

「写し」という仕事は、はじめから、勝負が見えている仕事と言えなくもありません。

土を探して焼くほうが楽かもしれない、と語るほど、根気がいる仕事です。
こうした「写し」の仕事を辛抱強く続けることは、目に見えぬものとの闘いであり、寄り添いでもあります。



京都を想うとき、怖さという言葉が、ときおり浮かびます。
そこに生まれ住む者は逃れられない命(めい)のもとにいて、
あらゆるこわさから逃げずに、眼をひらき、自らの足で立たなくてはなりません。

そうでなくはものつくりの真実は遠ざかるばかりです。やきものは「怖さ」と向き合う仕事です。
古いものはそこに在り、常にこちらを見ています。
それらの眼から逃げず、奮い立ち、対峙し、寄り添い、心を許す。
やきものに向かう人の背中に一本の筋を見るのはそんなときです。

村田森の器には、怖さと闘い、向き合った者が「オリジナル」に向かうときの強さを感じます。
そして、このことが肝心なのですが、そうして生まれる器はどれも大変色気があり、
チャーミングで、慣習に縛られない「明るさ」を有している。
静かで、なんとも言えない佇まいがある器のひとつひとつに、
やきものへ向かう作り手の「せずにはいられない衝動」、つまり「いま」が見事に映し出され、胸を打つのです。

今回、本展に向かうため、村田森さんは、これまで使い慣れた薪窯をつぶし、
開口部の大きな新たな薪窯を造成しました。



器の作り手にとって、使い慣れた窯を取り壊し、新たに造成することのリスクは
計り知れないものがあります。

それでも、村田森さんは、

この展覧会のために、新たな挑戦をされたのです。

じっさい、新しい窯は簡単には思うような作品が生まれることはありませんでした。

試行錯誤の日々のなか、正真正銘の「身体を使って」の仕事に取り組みました。

そして光が見えたのはごく最近のことと 森さんは振り返ります。

「あほやかから、できた」とおっしゃいます。

「どれだけしんどかったか。でも、むちゃくちゃ、おもろい」と。

古い窯を壊しての開口部の広い薪窯の造成は、もう後戻りできない状況のなかで
これ以上ない「やきものの仕事」に彼を打ち込ませたのです。

ただ、「よいやきものを焼きたい」という純粋さが、「村田森」そのものなのです。



鎌倉の地でこのたびご覧いただくのは、新たな窯で焼成した器を中心に、

白磁、染付、粉引、刷毛目、そして黒高麗、井戸、彫三島、
韓国陶磁の旅から熱心に取り組まれた大壷など、一同にご覧いただきます。

すべて「このとき」にしかあらわれない、美しいやきものの仕事です。
村田森という作り手の、すべての仕事です。


この展覧会を、どうぞ、一緒に、作り上げてください。

ともに、ここに集う「平成の世のやきもの」を観て、感じて、その眼に留めてください。
心に記憶してください。

できることなら、すべての器ファン、器の作り手に直に観て欲しいと願います。

「7月7日はいざ鎌倉へ」。

ぜひ、お出かけになり、村田森さんと話をされてください。

彼がこの展覧会のために成し遂げた仕事を、見届けてください。

ご高覧賜りますようにお願い申し上げます。

なお、このたびの展覧会は『MURATA SHIN KAMAKURA 2012』(仮題)として書籍を刊行し、
記録を残すことになりました。

発行は9月初旬を予定しています。

会場内で 販売予約を開始いたします。 何卒よろしくお願いいたします。

                              
2012年7月5日 搬入前夜に

  祥見知生