TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

ともに生きていく

7月最後の一日、そろそろ夕食の買い物をしなければと家を出て、
鎌倉の夕方の気温はそれほど高くないことに気をよくして、
車に乗らず、一つ先の駅まで歩いてみました。
約束の時間もないので、歩くスピードは速くする必要はありません。
ただ、歩きたかったから歩く。日が暮れた町のなかを。
行き過ぎる景色は見慣れたものですから、発見という発見もないのですが、
それでも、頬にあたる風の流れを感じながら、歩きますと、
なんということのない「歩く」行為が、なんて幸せなことだろうと思いました。
自分の足で歩く。歩を進めることが、うれしい。
文月の夜に、わたしはひとり、着慣れた服でサンダルの姿で、そう、実感しておりました。
変ですね。



うつわ祥見の2013年、上半期の展覧会スケジュールがすべて終了しました。

1月 祝 生誕50年 吉岡萬理展
2月 村木雄児 黒の仕事
3月 吉田直嗣 LIFE展
慈しみの器 愛しき骨壷展
巡る器 旅する器展 東京・国立新美術館地階 SFTギャラリー
4月 尾形アツシ 薪の仕事 土化粧の器展
   巡る器 旅する器展 高松・まちのシューレ
  矢尾板克則 YAOITA WORLD 展
5月 横山拓也 器、或いは旅、結論なき・・展
6月 小野哲平展
石田誠 まことのマコト展IN 札幌 札幌・Cholon
7月 巳亦敬一 硝子のうつわ展
  うつわ、手に包むもの、愛しいもの展 那須・SHOZO CAFE

 

振り返ってみましても、どの展覧会も、力のこもった器たちが集っていました。

それぞれの作り手の「いま」を皆さんとともに共有できたように思います。

お出かけいただいた皆様、本当にどうもありがとうございました。



最近、ある方のお住まいに招かれて、「器の家庭訪問」に行ってまいりました。
「器の家庭訪問?なんのことですか」という感じでありましょうが、
招いてくださったのは、うつわ祥見のオープン間もないころから、展覧会のたびに訪ねてくださった姉妹の方です。
当時は、お二人とも別々にひとり暮らしをされていたので、ひとりずつ自分の好きな器を集められていらしたのですが、
4年ほど前に、海のある歴史ある町に、ふたりで一軒家を借りて住み始められたのです。
「いつの間にか、ほとんどの器は、うつわ祥見で選んだものですよ」とうれしいことをおっしゃるので、
「一度見てみたいなぁ」とお伝えすると、「ぜひ、遊びにきてください」ということになりまして。

それから数年がたち、今回、やっと、その訪問が実現したのでした。

鎌倉から在来線の電車に揺られ、ちょっとした遠足気分です。
夏休みを先取りしているような気持ちで、うれしい胸の高鳴りを感じました。

食卓には、地元で採れた野菜のお料理がずらりと並びました。
皿も鉢も片口も、小皿も、ぐいのみも、湯呑みも、何もかも・・・。
器たちは、本当に愛されて、よい顔をしておりました。

わたしは胸がいっぱいでした。



一年ずつ季節が巡り、年を重ねていくことで、
新しい器が少しずつ増えて。
家の守り神が台所に住むように、もしかしたら、土の器はこのおふたりを見守ってきたのではないだろうか・・と、ふと思いました。

人間の幸せ、というのは、簡単に言葉にできないものですが、
確かに、その食卓にあったものは、
人が食べる、その繰り返しのなかで、人と器の親密な関係、信頼と呼んでいいものなのではないかと思いました。
それは、ひとにとっても、器にとっても、何より幸せなことだと、信じられるのです。

このことを、実は、夕方、高知の哲平さんにも電話で話したのでした。
哲平さんも、言葉少なく、頷いていらっしゃいました。

器は人の時間とともに生きていくものですね。

何気ない日常のなかに、しっかりと、息づいている。

わたしは器たちを時々、抱きしめてあげたいと思います。



いま生きていくことは、苦しい現実のなかで逃げるわけにもいかず、かといって何も変ええる力もなく、
時々、とてつもない無力感にさいなまれることがありますが、それでも、食べて、笑って、眠って、淡々と生きていきたいものですね。


明日から8月。暑い日々がまだ続きますが、どうぞお元気で。


onariNEARは常設の器たちをご覧いただけます。
そして、WEBSHOPでも、とびきりよい器をご紹介していきます。


9月の展覧会は、うつわ祥見初めての「古いやきもの」を展示いたします。
またくわしくはご案内いたします。

9月7日(土)〜9月16日(月) UTSUWA Bon Antiques 展

時を経て存在を放つうつわの美しい姿をご覧いただきます。

どうぞお楽しみに。