TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

ひとりの手のなかで

こんばんわ。

寒い日が続いています。

冬になると、春が待ち遠しく、夏には秋を待ちこがれる。

繰り返し繰り返し、人は、あたたかさや涼しさや、心地よさを求めるものですね。

福井で原発が再稼働をされるというニュースが流れる夜です。遠い国の愚かなエピソードのように白々しく感じられます。こういう気分を何に例えたらよいのでしょうか。こんな夜は(今夜一日のことではもちろんなく・・)、好きな器でごはんを食べて、古本屋で見つけた本を読んで静かに過ごしたいと思います。今日のお供の本は、佐藤忠男著『映画で世界を愛せるか』(岩波新書) 帯の言葉は「愛憎を超え国境を超え映画の力で全世界の人間と手を結ぼう」1989年1月刊。良書です。

 

さて、歳を重ねて鏡のなかの自分が誰かに似ていると思うようになりました。

というより、写真に写った自分の顔が、どうも自分の知っている自分ではなく、身内のよく知った誰かに似ている、と感じたのです。若いときには似てると思わなかったのに、きっと歳を取ることでパーツが際立ってきたのでしょうね。DNAとはそういうものなのかもしれません。

 

小野哲平さんの個展をonariNEARで開催しています。

1月ですから寒くて凍えるような日もありますが、連日、ギャラリーを訪ねてくださる方で、店内はいつも温かな空気に包まれています。ありがとうございます。

 

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「この肌の器、めし碗を使っているのですが、同じタイプのもので湯のみが欲しいと思ってきました」

「色々な作家さんのものを持っているのですが、やっぱり使うのは哲平さんなんです」

「ひとつしかないコーヒーカップを夫婦で取り合っています。だからもう一客欲しくて」

「鉄化粧の取り皿を二枚持っているので、この呉須の取り皿も二枚にしました」

「どうしてこの器は気持ちがいいのでしょう」

「最初は重くて使いづらいのかな、と思ったけれど、他のものにはない安心感があるので、つい手が伸びてしまうのです」

 

皆様のお話をお伺いしていますと、小野哲平さんの器を求めていらっしゃる方は、もうすでに哲平さんの器をお使いになられている。この確率が高いのです。そして、とても嬉しそうに、わが家の「哲平さん」についてお話してくださる。

 

これは本当に素晴らしいことです。

器への信頼という言葉が的確かどうか、と思いますが、

使われてこそ価値のある器に、ひとつ手に入れてみたけれど、ひとつで良かったのではなく、もうひとつ、さらにひとつ、と、受け入れてもらえることが、器にとって、どんなに素晴らしいことでしょう。

いっとき、雑誌に力があった時代、誰かが紹介したとか、誰かが使っているとか、そういう「情報」で人がモノを買う時代がありました。いまもそういう風潮はあるのかもしれませんが、そんなことで人気になるのは本質からはほど遠いことです。

 

ひとりの手のなかで、ひとりの心に訴えかけられるのは、ひとつの器です。同時にふたつの器を人は手に包むことはできないのです。

 

だから、手に包まれることが大事。

手にしてもらうことが大事。

そして、繰り返し、使ってもらうことが大事です。

 

この器と出会えた人は幸せだなぁ、と思うことがあります。そう思える器はわたしにとっても喉から手が出るほど欲しいのです。今回の小野哲平さんの呉須のお仕事は、青く深く、一客ずつ、そこに宇宙があるように美しいものです。

よい器とは、作家の苦労の結実と申しましょうか、器のいたるところに、繰り返し作り手が目指したものが現れている器です。

 

哲平さんの器は、これまでの作陶のキャリアのなかで、どのくらいの器が生まれたのでしょう。作品集『TEPPEI ONO』には独立直後の25歳の時の作品から現代まで100点以上の器が掲載されています。時代時代に作風があり、そのひとつ、ひとつ、どこか名の知らぬ誰かの手のなかで、育っていることを思うと、素直に、こころが温かくなります。

年代年代で、同じころに焼かれた数多くの器があり、それらは大変似ています。小野哲平さんの器には、小野哲平というDNAがあるということなのでしょう。でも、ひとつひとつ異なる。そして実際、使う人の手によって、違う使われ方をしていて、育ち方も違う。けれど、それらの器は同じように、使う人に愛されて大事にされている。今回の小野哲平さんの個展で皆さんとお話していますと、いつもに増して、そう感じられるのです。

 

------ 哲平さんにとってのいいうつわってなんですか?

 

「食器棚にある器で何も考えなくても、ついつい手のいくうつわってないですか?機能や使い易さも大事ですが、気持ちを受け止めてくれるうつわでしょうか」(2015年10月東京・青山CIBONEで配布のフリーペーパーにて)

 

小野哲平展は2月1日まで。

明日は関東でも雪が降るようです。

寒い日が続きますが、器とともに暖かくしてお過ごしください。

良かったら、器に会いにいらしてください。

頼りになる器を手になさったら、気持ちが晴れることもあるかもしれません。