目には見えずとも感じられる確かなもの。
国立新美術館SFTギャラリー「うつわ かたち」展(2016年6月29日〜9月5日) が終了いたしました。
お出かけいただいた皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
最終日、美術館の閉館を知らせるアナウンスを聴き遂げて、会場を後にしました。6月末より2か月以上にわたる長丁場の展覧会でした。
展覧会は企画を考えて実際にオープンするまでに非常に時間がかかるものです。立ち上げからの準備期間は助走のようなもので、実際によその方には見えないのですが、その見えない部分で動いていた頃の、打ち合わせの数々、同名のタイトルの書籍『うつわ かたち』の刊行までの道のり、その道道での小さな積み重ねのことが懐かしく思い出されます。
展覧会は期間を限定して行われるものですから、限られた時間において現れる(企画者の意図で出現させる機会)のようなものですが、実際には、企画者の意図を超えて、この期間に出現した〈時間や空間〉が、ものがたりを深めていくものです。今回もそのことを実感いたしました。
会期中、一週間に一度、ギャラリーよりその週の動向を伝える週報が届きます。その際に、会場の様子や印象に残ったお客様とのやりとりや言葉を書きそえてくださるのですが、その言葉を読むたびに、来場者の皆様と器との出会いのシーンを思い浮かべ、心があたたかくなりました。なかには、小さなお子さんを連れた方が小さな手で自分が食べる器を選ぶような微笑ましい場面もあったと聞きます。また、日本古来の蚊帳に包まれた空間設計にも様々なご意見をいただきました。その多数はとても落ち着き、器をゆっくり見ることができたというご感想です。
今回はルノワール展やその他の公募展を目当てに美術館を訪れた方が偶然うつわかたち展で探していた器に出会うようなことが多かったようです。
沖縄や宮崎、愛媛など、遠方からのご来館者の方も多く、皆様、心からうつわとの出会いを喜んでくださっている声を多数お聞きすることができました。
そして、今回、SFTギャラリーでの企画展に初めてお声がけさせていただいた、和歌山で作陶されている森岡成好さんの力強い南蛮焼締の器に反応される方が多いのに気がつきました。空間の什器の和紙作家のハタノワタルさんも、森岡さんの器に初めて出合い感じられたことがあったとお聞きしています。
最近は、つくづくと、器が人を呼んでいるように感じます。
器自身が、自分を見つけてくれる人との縁を導いているような、不思議な感覚です。
それは目には見えずとも、流れては消えていく情報ではなく、実際に感じられる、確かなものです。
ひとつの展覧会が終わるたびに感慨深いのは、そういう器と人との出会いの場面がレイヤーのように重なった空間と時間がその限定の会期を終えて消えることの切なさや、短い時間に現れそして消えていくものだからこそ感じられるかけがえのなさに心が反応しているのでしょう。
展覧会は、器と人との出会いの場です。
これから永く付き合っていただくために、
そのきっかけとなる機会をこれからも真摯に作っていきたいと願います。
確かなものを大切にしていきたいと思います。
さて本展は、札幌の中心部にあるギャラリーにて、「暮らしのなかの、うつわかたち展」として巡回いたします。久しぶりの札幌での展覧会となります。
総勢22人の作り手の器をご覧いただきます。
なかには、書籍『うつわかたち』に掲載した実際の器も含まれます。
どうぞゆっくりと、この機会に器を手に取り、ご覧ください。
暮らしのなかの、うつわ かたち展
会場 Kita Kara Galley
会期2016年9月9日(金)〜 9月17日(土)
時間10:00-19:00 (最終日17時まで) 日曜祝日休
札幌市中央区大通西5丁目大五ビルチング3階 TEL : 011-211-0810
出展作家
荒賀文成 石田誠 尾形アツシ 小野哲平 亀田大介 寒川義雄
木曽志真雄 谷口晃啓 寺田鉄平 八田亨 光藤佐 巳亦敬一 村上躍
村木雄児 森岡成好 森岡由利子 萌窯(竹内靖 竹内智恵) 吉岡萬理
吉田崇昭 吉田直嗣 安永正臣
Kita Kara Galley
http://www.kitakara.org/content.php?id=6440