12月の夜に。
12月の夜。
カレンダーが最後の一枚になり、心細い気持ちで朝を迎え、そしてやがて夜になり、約束していた打ち合わせが終わって人気のない道を歩いて空を見上げると、美しい月が浮かんでいました。
「ああ、12月なんだ」と、そのとき妙に納得したのです。
格別な気持ちですね、なんだか。
走り続けてきたからでしょうか・・・今年は特に。
この数日は、たくさんの人にお会いしました。
ずっと会いたいと願っていた人にも会えて嬉しさが広がるような一日もありました。
来年の展覧会の打ち合わせも、スケジュールの詳細についても・・・やりとりを重ねて決定していきます。
今日も、午前中に来年の最初の展覧会についての打ち合わせを。
椅子展とセツローさん展。
同時開催で来年度 NEARで行う最初の展覧会です。
今回、セツローさんのスケッチの額装を、同じ御成通りに店を構える「イヌイットファニチュア」の犬塚さんにお願いすることになり、もともとセツローさんのファンであった犬塚さんと、うつわ祥見、セツローさんのコラボレーションによる作品をご覧いただくことになりそうです。
仕上がりが楽しみです。
そして午後には、うつわ祥見で明日より始まる「矢澤寛彰 漆のうつわ展」の搬入を行いました。
椀やお盆、皿、折敷、漆の作品たちが運ばれてテーブルの上に置かれると、部屋中に、なんとも表現しがたい雰囲気が漂いました。
朱や黒の深い漆の色は、人のこころを落ちつかせる作用があるのですね。
そのことを、肌で感じます。
矢澤さんの漆の作品は、大げさではなく、日々のなかで使われ育てられて、ふと時間が経ったときに、しみじみと「いいなぁ」と思える良さを持っています。
わたし自身が3年使って、本当によいと思えた漆です。
うつわ祥見で伝えている土の器と一緒のテーブルにあり、互いを認めあい、互いを引き立てあう、その柔らかな物腰を持っている漆のうつわたち。
食べる道具としての漆を自分の手に包み、何かを感じて、選んでみる・・・。
そんな展覧会でありますように。。。
うつわ祥見にとっても初めての「はじめましての漆」です。
ぜひお出かけになりご覧ください。
12月の夜は、今夜も更けてきました。
さきほど出版社の方から連絡があり、新刊の本が明日にも見本が届くとのことです。
展覧会が続いた今年、一日も休むことなく動き続けた1年であったように思います。
そのなかで一冊の本をこうして上梓することができたことが不思議な感覚です。
今日も打ち合わせのなかで「イヌイットファニチュア」の店内に『セツローのものつくり』があり、少しお話したのですが、
『セツローのものつくり』を作りたいと思ったときには、
そのことしか頭になくて「どうにかしてセツローさんの作品集を作るんだ」と思うわけですね。
それは誰にも譲れないこととして「自分がどうしても作るんだ」という強い気持ちです。
終わってみると、その「情熱」が一冊の本のなかにあり、もうその「情熱」は自分のなかにはない・・・「ない」というより、「移行」した感じなのです。
一冊の本が出来上がるまでの自分と、出来上がったあとの自分は、少しだけ何かが違っているように感じるのです。
本当に不思議な感覚ですね・・・
何はともあれ、『器、この、名もなきもの』がもうすぐ出来上がります。
今回の本は、わたしにとって、転機となる本になると思います。
ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思っています。