TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

 吉田直嗣 白と黒の器展 

こんばんわ。

日本の各地で桜の便りが聞かれます。

鎌倉でも八幡宮に続く参道の桜が満開となり、多くの観光客の皆さんで賑わっています。

わたしはいつも鎌倉山を通り、NEARへ向かうのですが、毎年この季節になると、桜のトンネルのした、車を走らせて、しばし花見を楽しんでいます。

さて、4月。

今月は札幌で、「吉田直嗣 黒と白の器展」から展覧会がスタートしました。




会場は、北海道で無垢の木を使った家具を丁寧に作っている北の住まい設計社の、札幌店 
GOODNEWS sapporoです。

初日は曇り空から粉雪が舞い、次第に、吹雪に。



北海道初個展の吉田さんの歓迎の雪だったのかもしれませんね。

「日々の器」というテーマで行われたトークイベントでは、吉田さんの作陶の姿勢について伺いました。

吉田さんとのトークで、私がいちばん聞きたかったのは白と黒、ごまかしのないモノトーンの器にこだわり続けていることについてです。

もしかしたら、吉田さん自身もある程度、その質問は聞いてくるだろうな、と準備していたかもしれません。

けれど、結果として、わたしはその問いをストレートに聞くことはしませんでした。

なぜなら、その問いにつながる手前のところで、吉田さんは明確に、
ご自分の作陶へのスタンスについて言葉にされたからです。

それが、「自分にとってのリアリティ」という言葉です。

代表的なリム皿について「土ものでこれほど薄く平らな器を作る人を私は知りません」と説明したところ
「ぼくの作る器は、洋でも和でもないものです」と吉田さんは言いました。
確かに、彼が作る皿は、和皿でも、そして洋皿でもないのです。それに対して、
彼は、「それがぼくのリアリティ」であると話したのです。



たとえば白磁の蕎麦猪口について、手のあと、形の不整合さについて、
「そうでなければ、気持悪いのです」と吉田さんは言います。
形が整い、均質化されたプロダクトのものの美しさは認めながらも、
「でも、少しずつ揺れていたり、少しずつ個を感じさせるもの」を心地よいとする感性。

そして和でもなく、洋でもない器つくり。
それが「自分にとってのリアリティ」であると。

たとえば、新作のオーバルの器についても、彼のリアリティは生かされています。
「型」で最初のかたちを作る、吉田さんにとって初めての挑戦なのですが、
型で成型したあとに、周りのラインを時間をかけて手作業で削られるのです。


「自分にとってのリアリティ」という言葉は、とても印象深いものです。

わたしがここで思い出したのは、以前、一度だけ、
山土を 薪窯焼成して作った吉田さんの茶碗です。
自然な轆轤のかたちといい、釉薬の色っぽさといい、
それはそれは素晴らしい器でした。けれど、そのあと、その仕事を続けずにいらっしゃる。

「できることと、したいこと」は違います。「できること」に埋もれず、
「したいこと」に自分を注ぐこと。それが彼にとって、鉄釉の土もの〈黒〉と白磁〈白〉なのです。

トークイベントでは、時間いっぱいまで、
自ら土から作られている鉄釉について、白磁の異なる焼成方法について、
使い勝手から厚みを意識し始めた轆轤の変化について、
言葉を選びながら、多くの質問について 誠実に答えてくださいました。

「自分にとってのリアリティ」。

わたしは吉田さんの器に感じる、潔さや、少しでもよい器を作ろうとされている姿勢は、
すべてこの言葉に帰着できるように思います。

そして、さらに言うと、これから数年先、たとえば3年後、10年後、
20年後の吉田さんのリアリティはどこにあり、
それはどんな器となるのだろうと想像して、愉しく思うのでした。


見えない細部にまでこだわりを持ち、
マイナーチェンジを繰り返して確実に進化をされていく
「白と黒の器」をこれからも注目していただきたいと思います。


トークイベントを終えて、外に出ると、積もった雪が美しく、思わずシャッターを押しました。



札幌では、いつも熱心に器の展覧会や、鎌倉まで訪ねてくださる皆さんと再会し、とても楽しい時間を過ごしました。

皆さんとお話をさせていただいていると、
器の世界がふだんの生活のなかで、広がりを見せ、より愛されている様子が感じられて嬉しくなりました。



増えていく器を、お友達から誕生日にいただいたことにします、という「技」や、
夜中にこっそり新しい食器棚に仲間入りされているお話など、
「ここだけの内密な器はなし」をお聞きするのもとても楽しかったです。


どれも私自身も経験のあるエピソードでしたので、
「皆さんもご苦労されていらっしゃるなぁ」と思ったり・・・。
器を愛する者同士ならではの会で、あっという間に時間は過ぎていきました。


また、トークイベントでは、遠方よりお一人で、前回の村上躍さんの会にも出席してくださった方が、
帰り際、「どうしてまた来てしまうのか、話を聴いていて わかったのです。
わたしも明日から頑張ろうって思えるんですね。だから、また、来てしまうのだと思います」
とおっしゃったのが嬉しかったです。


札幌での在店日にお出かけいただいた皆さま、
この場を借りて、お礼をお伝えさせてください。
ありがとうございました。


吉田直嗣 白と黒の器 は札幌で4月15日(日)まで。

GOODNEWS sapporo
北海道札幌市豊平区西岡4条4丁目2-1
011-859-1220

以下、北の住まい設計社 各店で 巡回が予定されています。

ぜひ、お近くの会場へお出かけください。くわしくは北の住まい設計社のホームページをご覧ください。

 東川ショールーム 4月21日(土) 〜 5月6日(日) 
 ※ 名古屋店、大阪店の会期が変更になりました。ご注意ください。

 名古屋店 5月19日(土)〜6月10日(日)
大阪店 6月16日(土)〜7月1日(日)


http://www.kitanosumaisekkeisha.com/top.shtml