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うつわとともに。祥見知生のブログです。

春に・・・1

こんにちは。

西からやってきた雲が雨を降らせています。
春の雨に濡れる鎌倉、少しだけゆっくりとした朝を迎えました。

早朝のテーブルには昨夜遅くに飲んだお茶のポットがそのままにありました。最近は森岡由利子さんから頂いた加賀棒茶がお気に入りです。和歌山の工房を訪ねるといつもお土産にさりげなく何かをもたせてくださる、その優しさが大きくて、お茶を飲むたびに由利子さんのお人柄に包まれるように感じるのです。白磁のポットは常滑で作陶している田鶴濱守人さんの個展で求めたもの。たっぷりと大きく、たくさん湯量が入るので、お代わりを何べんも飲むのに重宝しています。昨年DEAN&DELUCAでの展覧会に初参加していただいた田鶴濱さんの個展を訪ね、ゆっくりとお話を伺いながら選び我が家に来てくれた器たちは、このポットをはじめ、すぐに馴染んで「うちの子」の顔になりました。
こうして何気なくお茶のことを書き綴ってみても、ひとつひとつ、身の回りにあるものには出会いの理由があり、ものといえどもすべてにご縁があるのだなぁと改めて思います。

さて、春は新しい出会いの季節と言われます。
振り返ってみたら後々、あの出会いが人生を変えたということもあるものです。
齢を重ねて思うのは、そういう出会いは作りだそうと思って生まれるものではなく、自然とそのようになった・・とでもいうのでしょうか、自ずと然る、自然(じねん)によって生み出されてくるものなのだ、という感覚です。友達もきっとそういうものですよね。知り合いになれても友達なんてなれない。出会って随分時間が経ちお互いに気が付いたら友達になっていた、というのが正解なのでしょう。時を経て熟成して実るものが真のつながりになれる。ただ直感というものは確かにあり、この人(このもの)とは長い付き合いになれそうだな、なれたらいいな、と感じる。その直感を大事にしていき、人やものとの出会いをおおらかに重ねていくことも、歳を重ね自分なりの「人生と呼ばれるもの」を熟成していく楽しさのひとつなのかもしれません。

2月には2年ぶりに長崎・諫早にあるORANGE SPICEで展覧会を行いました。平湯祐子さんをはじめとしてスタッフの皆様が作り出している温かな空間にうつわたちが並ぶ様子は、いつ訪れても心に残ります。うつわを心から大切に想い、伝えてくださる。人と人のつながりがあってはじめて、大事なうつわを預けることができるのです。これからもこのご縁を大切にさせていただきたいと思っています。

長崎の展覧会の度に必ずお出かけいただける皆様は、遠くの家族のように思えます。

ありがとうございます。

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 さてこの春、大切なご縁のつながりのなかで、様々なプロジェクトが始まっています。

3月、銀座・三越で行われた「うつわと暮らす展」。百貨店のリビングフロアで器展をするのは初めての試みで、美しくわかりやすく展示を整えるのに苦心しました。

会期中は、新しい生活に必要な器を選びにいらした方がお箸やクロスと一緒に器を選んで行かれたり、引き出物にされたり、百貨店ならではの出会いが生まれたようです。

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三越の包み紙は昭和25年、百貨店で初めてオリジナルの包装紙として誕生し、永く親しまれています。猪熊弦一郎画伯のデザインで当時三越の宣伝部にいたやなせたかしさんがロゴを入れたという伝説の包装紙。今回、子供の頃から慣れ親しんだその紙に包まれる器たちのことを想像しますと、なんだか急に頬が緩んで嬉しくなりました。
2週間の会期中は、担当者の方が驚くほど、器を求めて6階フロアに上がってくる方がいらっしゃったとのこと。お出かけいただいた皆様に心より感謝いたします。

 

静岡・三島のクレマチスの丘には、うつわ茶房KEYAKIがオープンいたしました。日本料理tessenの一階の空間です。オープン記念展として『うつわを愛する』出版記念展が開催されています。

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クレマチスの丘は、四季折々の花が咲く庭園とベルナール・ブッフェ美術館、ヴァンジ彫刻庭園美術館、写真美術館、3つの美術館とレストランなどを併せ持つ文化複合施設です。今年は開館15周年の記念の年を迎えられ、樹をテーマした展覧会が企画され話題を集めています。

https://www.clematis-no-oka.co.jp

クレマチスの丘を運営されている副館長の岡野晃子さんは、静岡の地で、うつわ文化をじっくり根付かせていきたいとおっしゃっています。このご縁を大事にし、うつわを手にしてくださる方との出会いを増やしていきたいと考えています。
三島は、JRで新幹線を利用すれば驚くほど身近な場所、一時間もあれば到着します。駅を降りてからクレマチスの丘までは無料のシャトルバスも運行しています。タクシーでも2000円程度です。
鎌倉からは大船乗り換えで伊豆の踊り子号が快適です。
一日ゆっくりと過ごしたい休日に、少し足を伸ばして訪ねて下さい。
空が高く広々とした素晴らしい景観が気持ちを晴れやかにしてくれます。

 

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『うつわを愛する』出版記念展
会期 2017年3月19日(日)〜5月30日(火)
場所 うつわ茶房KEYAKI  
〒411-0931
静岡県長泉町東野クレマチスの丘347-1

TEL(055)989-8787

 

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また、もう発表になっておりますが、クレマチスの丘で、8月13日に行われるキャンドルナイトコンサートに大貫妙子さんのライブが行われます。今回このライブをコーディネートさせていただきます。2010年に高知県立牧野植物園で企画・共催した「樹と言葉展」のために書かれた「名のない大樹」を含む樹にまつわる言葉の朗読とアコースティックなライブを予定しています。
「樹と言葉展」からのご縁で2013年より3年間、マネジメントを担当させていただいた大貫妙子さんとまた新しい場でご一緒できる機会が今後も増えていくような予感がしています。このご縁も大切に紡いでいきたいと思います。クレマチスの丘のキャンドルナイトコンサートお申し込み受付開始は、少しの先の6月10日(土)午前10時より。ぜひ皆様お越しください。

 

新しいお知らせはまだ続きます。

順番に書いておりましたら、一度では書ききれませんでした。

新しい本のことやこれから初日を迎える展覧会のこと、次の頁でお伝えしたいと思います。

雨の日も晴れの日も、出会い慈しみ、朗らかに。
人生をおおらかに過ごしたいものですね。

この日記を読んでくださる皆様にいつも感謝しています。

 

祥見知生

 

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ふと目が合えば 話しかけてくれる・・

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こんにちは。

文章の出だしは、「もう気がつくと・・」というのが多いのです。

でも、いつも、これは本音のことばです。

つい先日おせちを食べて初詣に行ったと思っていたのに、

もう1月も半ばを過ぎて、月の終わりが間近に迫ってくるのを感じています。

onariNEARでは吉岡萬理さんの個展が終わり、

常設展示が始まりました。

 

奈良で作陶されている吉岡萬理さんの個展は毎年1月に開催しています。

今年の展覧会では、壁掛けの色絵皿を100点以上作ってくださいました。

手描きですから、絵柄は同じものは一つとしてありません。

訪れたみなさんは、一枚一枚手に取り、楽しんで選ばれていかれました。

お出かけ頂いた皆様、ありがとうございました。

今年は干支にちなんで鳥の絵が多かったのですが、カラフルな色絵の鳥達がそれぞれ自由に伸びやかに皿の上で活躍しているさまを見て、ああ自由だ、と心底思いました。

 

面白くて、人情味があり、優しい。

吉岡萬理さんの作品には、愛情が満ちているのです。

 

自由とは、突き抜けているものと思いますが、

その根源にあるものとは、愛情なんですね、やっぱり。

 

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萬理さんの色絵皿は、ふと目が合えば、やあ、元気? と話しかけてくれる。

落ち込むことがあっても、まあいいかと思える。

いろいろあって、それもいいものだよね、と。

肩を落としてしょげかけるような夜もやり過ごせそうに思える。

健やかに日々を過ごせそうです。

 

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WEBSHOPでは欠品となっていた吉岡萬理さんのうつわをご覧いただけます。

どうぞゆっくりご覧ください。贈り物にも喜ばれています。

  

さて、京都の恵文社一乗寺店では『うつわを愛する』出版記念展示が始まりました。

本とうつわの展示は、昨年12月の代官山蔦屋書店に続いてのことです。

今回は、小野哲平さん、荒川真吾さん、吉田崇昭さん、矢尾板克則さん、吉田直嗣さん、安永正臣さん、尾形アツシさんのうつわを中心にご紹介しています。

 

 

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作ることは、深い思想の上にある。

優れたうつわは、そのことを感じさせてくれます。

耳で聞くことはできないけれど、

心で感じることはできる。

ものを見ることや触れることは、

心の中にある言葉を聴くことだと思います。

それには、少し、ゆったりとした時間が必要ですね。

静かな樹林を散策するような何かに深く包まれる時間です。

 

詩集と写真集、哲学的とも言える漫画本、映画本・・・

私の好きな恵文社は健在でした。

それこそ、ふと目が合えば話しかけてくれる本がいっぱい。

名のない風景に出会ったような、でも確実にそれを美しいと感じる人がいてくれるような、親密さや包容、そうしたゆっくりとした空気が店内に流れています。

 

好きな場所で好きな器を伝えたい。

派手な宣伝もないけれど、確実にそこに何かを残していけるような・・。

 

そういう、旅のような(とでもいうのでしょうか・・)

うつわの展覧会をこれからも続けていきたいと思います。

 

2017年もうつわとともに。

毎日手にしたり、口に触れたり、目にしたり・・・

愛するうつわとともに勇敢に行きたいものですね。

どうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

今年もありがとうございました。

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こんばんは。

あと数時間で、2016年も暮れていきます。

大晦日、いつものテーブルでこの文章を書いています。

 

今年もうつわ祥見の展覧会、常設展、WEBSHOPを

ご覧いただき、誠にありがとうございました。

2016年も多くの器をお伝えすることができました。


心より感謝申し上げます。

 

今年、予定されていた展覧会の全ての初日を迎えたのは、

12月24日クリスマスイブのことでした。

場所は台湾、台北のギャラリー小器さんにて、

高知の陶芸家・小野哲平さんの初個展です。

私にとって台湾では二度目の展覧会となります。

昨年 台湾のギャラリーの方から「台湾では初日にたくさん詰めかけるということがなく、比較的初日はのんびりしたものです」とお聞きしていました。

でもせっかくなので、初日、小野哲平さんご本人が在廊するのですから、できるだけたくさんの方にお越しいただきたいと願っておりました。

当日、予想に反して、大変多くの方がオープンと同時にお越しくださいました。

みなさん、とても普通に・・というのでしょうか、自然にうつわを手に取り、自分の手にそれぞれのうつわを包み、選んでいかれました。

その様子を私も哲平さんもとても嬉しく見つめました。

なかには、うつわ祥見のWEBSHOPについ先日掲載しためし碗の写真(もうすでに完売したものです)を見せて、このうつわが欲しかったけれど残念です、と言われた方もいらっしゃいました。

海外からサイトの更新を熱心にご覧になっていらっしゃる、その様子に、改めて驚きました。

 

WEBSHOPをリニューアルして一年になります。

最初は抵抗があったこのWEBというもの、最近では、「24時間開いている窓」だと考えております。

 

私の願いは、変わらず、うつわを愛する気持ちを伝えることですが、この窓をいつもオープンにしていることで、うつわのことをより知っていただき、日本にとどまらず、手にしてみたいと思われる方に実際にお届けできるようになったのではと感じています。

 

さて、今年は二冊の本を上梓することができました。

『うつわかたち』( ADP)と『うつわを愛する』(河出書房新社)です。

私にとって本はTime Capsuleのようなものです。

好きな本は時間を経ても色褪せるものではありませんし、

まだ知らない世界を知ることのできる大切なメディアであることは変わりありません。

そして、事実、その時のいま(現在)が紙の中に閉じ込められ、著者でさえも予想もしていなかったことの起因となることがあるのです。

最近では、2009年に刊行した『器、この、名もなきもの』(里文出版)を読んだ方が訪ねていらっしゃいました。熱心に読み込んでくださり、7年の年月を経て実際に鎌倉へお出かけになり、うつわを手にしてくださったのです。とても嬉しいことでした。

 

それにしましても、時というものは、何もかも全て流動的に流れているものですね。時間も空間も、決して、その場に留まってはおれません。

人と人の関係も、決して、同じではいられません。

時代の変わり目とは、あとで振り返った時に検証されるものですが、

アメリカの大統領が不動産王に変わる日も、国民的アイドルと言われたグループの解散も、日本のメディアでは同じ土俵の上で、いずれ懐かしく語られるのでしょう。

 

世界が変わる節目に、日本も我々の想像以上に変わっていくかもしれません。

誰にも未来は予測できるものではありません。

それでも変わらないもの、食卓にあるうつわを、愛する気持ちを持ち続けていたいと願わずにはいられません。

 

うつわ祥見のHPにて、2017年のonariNEARの展覧会スケジュールを

お知らせ致しました。

http://utsuwa-shoken.com/exhibition/schedule.html

 

うつわ祥見初個展の方もいらっしゃいます。とても楽しみな1年となりそうです。

 

WEBSHOPでは、暮らしの中で使われ育つ日々の器をご紹介しています。

お時間のある時にゆっくりご覧ください。

 

onariNEARでは新年は1月4日(水)より営業いたします。

気持ちを新たに、うつわと向き合い、丁寧にお伝えして行きたいと思います。

 

そして、1月7日(土)からは、奈良で作陶されている吉岡萬理さんの個展を開催いたします。

 

使いやすく丈夫で、食卓を明るく華やかに、

わくわくする喜びに満ちる萬理さんの器。

今年も色絵の器が多数届きます。ぜひゆっくりとご覧ください。

 

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そして、お知らせです。初日、西鎌倉にあるイタリアンにて、

吉岡萬理さんをゲストに美味しいものを頂きます。

うつわ祥見の新年会、ぜひ初めての方もお気軽にご参加ください。

 

日時:1月7日(土) 19時~

場所:trattoria Fossetta 鎌倉市西鎌倉1-2-1 TEL 0467-32-4400

会費: 5000円 税別

お電話、メールにてお申込みをお願いします。

お名前とご参加人数をお知らせください。

電話  0467-81-3504

メール onarinear☆utsuwa-shoken.com へ(☆を@に変えて送信ください)

 

吉岡萬理展

1月7日(土)~1月16日(月) 会期中休 1月10日(火)  

営業時間        12:00〜18:00

作家在廊日    1月7日(土)1月8日(日)

場所    utsuwa-shoken onari NEAR

神奈川県鎌倉市御成町5-28 TEL:0467-81-3504

 

さてさて、カウントダウンまで、1時間あまりと迫ってきました。

新しい年が皆様にとって素晴らしい一年でありますように。

来る年もうつわ祥見をどうぞよろしくお願いいたします。

器とともに朗らかに、どうぞ良い年をお迎えください。

 

 

 

重ねて見せる、というリスペクト

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東京ミッドタウン DEAN&DELUCAで開催中の「はたらく器、おいしい皿。2016」が大変好評です。

連日、多くの皆様にお出かけいただいています。

ありがとうございます。

 

なかには、作家ものの器を初めて求めました、という方もいらして、

とても嬉しく思っています。

 

ご承知のように、DEAN&DELUCAは食のセレクトショップです。スタッフの皆さんは食を伝えるプロです。例えばワインやチーズ、オリーブオイル、トマトソース・・。作り手の顔が見え、誇らしくものつくりに励んでいる生産者の食べものの豊かさを自分の言葉で伝えようとされています。

本展は、今回で3回目の企画展になります。

この展覧会を訪れた方で、作家ものに詳しい方はディスプレイに驚かれるかもしれません。ここではあえて、器を重ねて、積み上げて展示しています。このディスプレイのコンセブトは、重ね、積むというリスペクトです。写真は初日の様子です。

これには理由があります。

ヒントとなったのは、DEAN&DELUCAのディスプレイ。「誇らしいものを誇らしく美しく見せる」という熱意を感じたのに他なりません。

器の作り手も同じように、誇らしく仕事をしていること、食べることを本気で考えること、そして家の中の器は必ず重ねて収納される「器」というものの誇らしさをそのままに見せる。そのことをディスプレイの要にいたしました。

あえて作家ごとに並べていないのは、作家名よりもむしろ、感じたものを大切に選んでいただきたいという願いも込めています。

もしかしたら大勢の力のある作家の皿を手に取り、これほど楽しく選べる機会は他にはないかもしれません。何しろ、お店の中には、美味しそうな食材も揃っているのです。ワインとチーズと一緒に美味しそうな器も選ぶ。そんな楽しさがここにはあります。

 

「はたらく器、おいしい皿。2016 」は残すところあと2日になりました。

10月20日(木) まで行っています。営業時間は11時〜21時です。

 

お見逃しなく、お出かけなり、ゆっくりご覧ください。

 

http://www.deandeluca.co.jp/utsuwa2016/index.html

 

 

 

 

 

 

 

阿南維也 青文様展  

 

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onariNEARで開催された阿南維也さんの初個展 青 文様展が終了いたしました。

この個展について、阿南さんの今回の作品がなぜ素晴らしいのかを最終日に連続ツィートいたしました。この場に、阿南さんとの会話を加筆して、記します。

昨年のことでしょうか。大分の阿南さんの工房へ初めて訪ねました。ちょうど東京の個展に作品を送ったところで、ほとんど工房には何も残っておりません。せっかくお訪ねしたのに、器を目の前にしてお話することができず残念に思いました。

しかし、その後に、とても不思議なことが起こったのです。


不思議な偶然と言いますか、ふとした一言での巡り合わせと言いますか・・。阿南さんの鎬(しのぎ)の仕事はなぜこんなにも誠実なのか、この線は最後までやり抜こうとする根気と、この作業が好きな人の手によるものですね、と伝えたら、彼は過去の修業時代に繰り返し描いていた文様のことを話されたのです。

それが染付の青海波の文様でした。そしてただ一枚残っていた過去に描いた小さな皿を見せてくれました。それは阿南家の台所か洗面所、他人の目に止まらない場所でひっそりと使われていたものです。その器自身、家族以外の人の手に包まれることなど、その瞬間まで想像していなかったことでしょう。

その器は経年のためか、染付の色はくすんでいましたが一目見て、素晴らしい仕事であることがわかりました。ともすれば神経質に感じてしまう連続文様が人間味にあふれて、温かいのです。その一枚を通じて話した時のやり取りが、阿南さんとの本当の意味の、出合いの時間だったように思います。

本当はこの仕事をされたいのではありませんか、と私は訊ねました。

その時の表情を、正直、しっかりと覚えているわけではありませんが、迷うことなく、「やりたいと思います」と彼は答えられたように思います。

阿南さんに個展をお願いしようと考えていた私は「阿南さん、この仕事をうつわ祥見で発表してくださいませんか」と提案し、今回の展覧会が実現したのです。

 

個展の搬入を終えた夜のこと、阿南さんは晴れやかな顔をされていました。

お話を伺いしました。

 

「僕の陶芸人生で二度目の転機になったと思います。

最初の転機はポンペイに行った時、遺跡を見て、帰ってきてから白磁がガラリと変わったんです。

知り合いの絵描きのおじさんが、お前、海外へ行ってこいと言われて訪ねた旅でした。

子供の頃から好きだったものとか、なんで好きなのか、わかったのです。雷に打たれたような衝撃を受けたのです。降り立った瞬間、一秒くらいでわかったような感じでした。

錆びた感じとか、壊れかけているようなものが好きだったんですね。鉄くずを集めたり。小学校の自由研究は古道具を集めたファイルだったりした。

本物を見て、どうしてそういうものに手を伸ばしたり、憧れたり、木くずとか鉄くずとか、時間が経って古びたものに手が伸びいていたのか、それがわかったのです。誤解を恐れずに言えば、それはきっと、多分、死への憧れなのでしょう。

今みたいにきっちりと作り出したのはそれからです。

青海波を描いている時は、頭の中は様々なことを考えて動いている感じです。手を動かしながら活発に考えている感じ。ご先祖さまのこととか、自分はどこから来たのだろう・・・とか、妄想ですね・・・」

描きだしていつ終わるんだろうというのは全くなくて、一枚の皿に2時間、3時間、8時間かけても、その時間は苦ではなかったそうです。

作家として初めて取り組み、10年ぶりに絵筆をとった瞬間は怖くなかったですか?との質問には、

「全く怖くなかったです。身体が覚えていたのでしょう、一筆めで大丈夫と思いました」との答え。寝る間を惜しんで描き続けた青海波。この個展にすべてを出しきり悔いはなし、とおっしゃいます。

 

作家が自身の湧き上がるものから向かう仕事には、何か言葉では表現しがたいエネルギーが作用するものです。その動機が純粋であればあるほど、素晴らしい仕事に結びつくものであることを改めて感じさせてくれました。

「作りたい」という熱情に勝るものは他にないのです。


かつて、村田森さんが京都の土を自ら掘り石を求め釉薬とし、初めて土物の器に取りくみ発表された個展の時のことを思い出します。当時ギャラリーとして信じて待つことしかできませんでしたが、その仕事の熱量は凄まじいものでした。
このことは『器、この、名もなきもの』に詳しく書きました。

そして今回の阿南維也さんの青海波の仕事は、白磁の器にも良い影響をもたらしたのです。文様を集中して描いている途中に「作りたくなって作った」という無地の白磁の器の色っぽいこと。何気なくて何でもなくて、非常に奥行きのある美しい白磁でした。その色気というのは創作として作れるものではなく、本来の阿南さん自身の色っぽさなのではないかと想像します。青文様を描きながら精神の高ぶりや、あるいは静かに躍動の時を迎えた時の作品が生まれたということなのでしょう。


作家として初めて発表された青海波、そしてその仕事のなかで自然と生まれた白磁の仕事。どれも「誠に」自身に向かわれた仕事でありました。よく応えて下さったと心より感謝しています。素晴らしい展覧会となりました。

 

道行く方々が初めて手にされ、その仕事に魅了され、お求めになられる方が多い展覧会でありました。

それはまさに、人を説得する仕事を阿南さんがなされたということの証だと思います。

 

真の展覧会とは山のようなもの、と思います。

作り手は作品をつくる準備をして山を登ります。足元を確かめながら山頂を目指し登り続けていきます。高い頂を目指せば山頂に登り見える景色も変わります。達成し、そして、そこから下山するのではなく、また新たな山を登り続けていくのが真の作家です。そういう作り手の仕事を私は心より尊敬します。お分かりのことと思いますが、作家にとって、作風を次々に開拓していくことは目的ではありません。トピックのように派手に目に見えるものではないので、わかりづらいかもしれませんが、作家は常に作品を通じて自身を掘り下げ内なる山に向かっているものです。

 

2016年10月、阿南維也 青文様展、

記憶に残り、そしてきっと次につながる素晴らしい展覧会でありました。

心より感謝いたします。

 

祥見知生

 

 

 

『うつわを愛する』に寄せて 

 

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河出書房新社から『うつわを愛する』がまもなく刊行されます。

春から取り組んできた仕事です。

 

このタイトルは実は数年前にも編集者の方に提案したのですが、その時には採用されなったことがあります。でも今回は他に候補を挙げることなく、すんなりと決まりました。

おそらく、世間のうつわ熱というもの (うつわブームのような現象)が出版社の方々にも認知され始めたのかもしれませんね。

 

「本当にうつわのことが好きなんですね」と言われることがよくあります。

取材などでは「好きが高じて・・・」と紹介していただくことが多いのです。 

好きというのは本当ですし、間違いではないのですが、

時々、好きなんてレベルではなぁーい、と言いたくなるのも正直な気持ちです。

好きと愛するはちょっと、レベルが違う・・・という複雑な気持ちでしょうか。

 

今回の本は昨年台湾で先に出版された『この器と暮らしたい』のために書いた文章をベースに新たに取材をした作り手の方々の紹介や、日頃うつわと接していて感じたことを書き下ろしたものです。

 

なかには、これまでの展覧会のDMで使用した写真も入っています。うつわ祥見のお客様にとっては、あれ、見たことある! と懐かしく感じられるような一枚があるかもしれませんし、作家さんの紹介の文章も知ってる知ってる!と膝を打つようなこともあるかもしれません。

これからうつわをもっと身近に感じ自分の手でうつわを選んでみようかという方にも、気軽に手にしていただけたら、とても嬉しく思います。

本の形はいわゆる単行本サイズで、これまで上梓した本のなかで器の本では初めての判型となります。装丁は岡本一宣さん。ご縁をいただき、お願いすることができました。美しく丁寧で、カラフルな一冊となりました。

 

小山乃文彦さんの章の終わりに、

小山さんから教えていただいた言葉を記しました。

「戦争に反対する唯一の手段は各自が日常を美しくし、それに執着することである。」

吉田健一の言葉です。

 この言葉に、今、とても共感いたします。

特に、文学者・吉田健一があえて選んだであろう「執着する」という言葉に

平和を諦めないことは自身の暮らしを丁寧に

そして手放さないことであることを静かに学びます。 

 

うつわを愛することは日々を愛すること。

この気持ちを一生持ち続けていたいと思うのです。

 

本はまもなく書店に並びます。

ご感想をお寄せいただけたら嬉しく思います。

 

いつもこの日記を読んでくださっている皆様に感謝しています。

今日も器とともに朗らかにいらしてください。

展覧会や常設で、皆様とお目にかかりますのを楽しみにしております。

 

祥見知生

 

 

 

目には見えずとも感じられる確かなもの。

 

国立新美術館SFTギャラリー「うつわ かたち」展(2016年6月29日〜9月5日) が終了いたしました。

お出かけいただいた皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

最終日、美術館の閉館を知らせるアナウンスを聴き遂げて、会場を後にしました。6月末より2か月以上にわたる長丁場の展覧会でした。

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展覧会は企画を考えて実際にオープンするまでに非常に時間がかかるものです。立ち上げからの準備期間は助走のようなもので、実際によその方には見えないのですが、その見えない部分で動いていた頃の、打ち合わせの数々、同名のタイトルの書籍『うつわ かたち』の刊行までの道のり、その道道での小さな積み重ねのことが懐かしく思い出されます。

展覧会は期間を限定して行われるものですから、限られた時間において現れる(企画者の意図で出現させる機会)のようなものですが、実際には、企画者の意図を超えて、この期間に出現した〈時間や空間〉が、ものがたりを深めていくものです。今回もそのことを実感いたしました。

会期中、一週間に一度、ギャラリーよりその週の動向を伝える週報が届きます。その際に、会場の様子や印象に残ったお客様とのやりとりや言葉を書きそえてくださるのですが、その言葉を読むたびに、来場者の皆様と器との出会いのシーンを思い浮かべ、心があたたかくなりました。なかには、小さなお子さんを連れた方が小さな手で自分が食べる器を選ぶような微笑ましい場面もあったと聞きます。また、日本古来の蚊帳に包まれた空間設計にも様々なご意見をいただきました。その多数はとても落ち着き、器をゆっくり見ることができたというご感想です。

 

今回はルノワール展やその他の公募展を目当てに美術館を訪れた方が偶然うつわかたち展で探していた器に出会うようなことが多かったようです。

沖縄や宮崎、愛媛など、遠方からのご来館者の方も多く、皆様、心からうつわとの出会いを喜んでくださっている声を多数お聞きすることができました。

そして、今回、SFTギャラリーでの企画展に初めてお声がけさせていただいた、和歌山で作陶されている森岡成好さんの力強い南蛮焼締の器に反応される方が多いのに気がつきました。空間の什器の和紙作家のハタノワタルさんも、森岡さんの器に初めて出合い感じられたことがあったとお聞きしています。

 

最近は、つくづくと、器が人を呼んでいるように感じます。

器自身が、自分を見つけてくれる人との縁を導いているような、不思議な感覚です。

それは目には見えずとも、流れては消えていく情報ではなく、実際に感じられる、確かなものです。

 

ひとつの展覧会が終わるたびに感慨深いのは、そういう器と人との出会いの場面がレイヤーのように重なった空間と時間がその限定の会期を終えて消えることの切なさや、短い時間に現れそして消えていくものだからこそ感じられるかけがえのなさに心が反応しているのでしょう。

 

展覧会は、器と人との出会いの場です。

これから永く付き合っていただくために、

そのきっかけとなる機会をこれからも真摯に作っていきたいと願います。

確かなものを大切にしていきたいと思います。

 

さて本展は、札幌の中心部にあるギャラリーにて、「暮らしのなかの、うつわかたち展」として巡回いたします。久しぶりの札幌での展覧会となります。

総勢22人の作り手の器をご覧いただきます。

なかには、書籍『うつわかたち』に掲載した実際の器も含まれます。

どうぞゆっくりと、この機会に器を手に取り、ご覧ください。

 

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暮らしのなかの、うつわ かたち展

会場 Kita Kara Galley

会期2016年9月9日(金)〜 9月17日(土)

時間10:00-19:00 (最終日17時まで)  日曜祝日休

札幌市中央区大通西5丁目大五ビルチング3階 TEL : 011-211-0810

 

出展作家

 

荒賀文成  石田誠  尾形アツシ 小野哲平  亀田大介  寒川義雄 

木曽志真雄 谷口晃啓 寺田鉄平 八田亨 光藤佐 巳亦敬一 村上躍 

村木雄児  森岡成好 森岡由利子 萌窯(竹内靖 竹内智恵) 吉岡萬理 

吉田崇昭 吉田直嗣 安永正臣

 

Kita Kara Galley

http://www.kitakara.org/content.php?id=6440