TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

『種まきびとのものつくり』。早川ユミさんとの出会い

今日、うつわ祥見を始める前に知り合った友人から手紙が届いた。一緒に高知の哲平さんの家にも行ったことがあるTちゃん。

そこに「インターネットやプログを今まで懐疑的に見ていたけれど、何を発信するかは自分次第なんですね。ショウケンさんの日記は器への愛があふれていて、読んでいてとてもいい」と書かれていました。

わたしも一昔前は、どちらか言うと、Tちゃんのように、昔はインターネットが目に見えない情報網で、生身の人間の頭と体に悪影響をもたらすものではないかと思っていたのですが、今回彼女の手紙にあったように、このツールは、使う人次第で、「伝える」手段として本当に素晴らしいなぁと思うようになりました。

いま、こうして、鎌倉にいて、パソコンに向かって一人で書いていることが、瞬時に遠く離れたどなたかのもとへ届いていくのですから。

そして「メール」のやりとりという、コミュニケーションもまた、私にとって、10年ほど前には考えられなかった必要なものとして、なくてはならない道具となっています。

2008年刊行ですから2年前のこと、高知在住の布作家の早川ユミさんと メールを何度もやりとりして完成させた本『種まきノート』は、ユミさんにとって、初めての単行本・エッセイ集でした。

そしてこのたび、二冊目となる『種まきびとのものつくり』が今月初め、めでたく刊行されました。


それにしても、ユミさんと初めて出会ったのは、今からどのくらい前のことでしょう。どのくらい時間が経ったのでしょう。

うつわ祥見をオープンさせた2002年の、その年か、その翌年か。

実ははっきりと記憶が定かではありません。

高知空港へ哲平さんと一緒に迎えに来てくれたユミさんと、
そのまま市内で一緒に「うどん」を食べた記憶があるのですが・・

そうです。思い出しました、

2002年のうつわ祥見の展覧会「こどものうつわ展」を、哲平さんやユミさんが「とてもよい展覧会だね」と言ってくださったことをお聞きしたのでした。

それで最初は「高知の工房へ訪ねて行きたいけれど、子供がいるので、日帰りできるでしょうか」と哲平さんに電話すると、「ユミが子供連れで泊まったらいいと言っているよ」と。

不思議なもので、わたしはその初めての高知から、毎年毎年、哲平さんの家にお世話になり、毎回泊まらせていただくことになっていくのです。

それ以来、もう何度谷相の家を訪れたのか、一緒にごはんを食べたのか、数え切れないほどの時間をともに過ごしてきたように思います。

人と人のつながりとは不思議なものですね。

わたしがいまも覚えているのは、
当時のうつわ祥見のサイトで連載を始めた「うつわびと」というページに書いた、

「ここにいると、時間は時計だけが刻むものではないと感じる」という言葉を、お二人がとても気に入ってくださったことです。

電灯も何もない「真っ暗な闇」、どっぷりと日が暮れていく谷相の山の暮らし、豊かな時間のなかに二人が暮してものづくりをしていることに当時、わたしは感銘を受けたのですね。

そのときの夜の暗さ、田んぼに響く蛙の声を、わたしはいまもはっきりと思い出すことができます。

不思議なものですね・・ともう一度書きたいのは、

器を伝える人間として小野哲平さんという作り手と出会ったのと、同じ日、わたしは早川ユミさんという愛すべき、そして尊敬すべき女性に運命的に出会っていたということを、この文章を書いていても、しみじみと感じるのです。

編集者と著者として、ユミさんと私、ふたりの関係は、強いつながりができていくのですから。

それにしても、どれだけの長い時間、ユミさんとわたしは、人が生きるために必要なことはなんだろう・・・、暮らしってなんだろうと話してきたことでしょうか。

闘うのではなく受け入れること、人を愛すること、包み込むこと・・ユミさんからは、いつも多くのことを学びました。

器を丁寧に洗う時間が平和を思うこころとつながっていく「洗い物の瞑想」という考え方には、本当に共感しました。

2年前に出版した『種まきノート』は、メールにも慣れていないユミさんが ほとんど「ひらかな」で書いて送ってきた文章を、ユミさんらしさを生かし、できるだけ「整えない」ことを編集方針にし、作った本でした。

ユミさんが伝えたいことがあふれた魅力のある本になりました。

そして今回の『種まきびとのものつくり』。
衣・食・住にわたり「小さなものから作ってみようよ。作ることは自分自身を解放することで、こんなにも愉しいんだよ」というメッセージにあふれた本が誕生したのです。

春も夏も、鎌倉や高知、東京で、まるで「合宿」をするかのように打ち合わせを重ねて、デザイナーのニコさん、カメラマンの河上さん、アノニマ・スタジオの担当Tさんと、チームのように絆を深めあって 作り上げた一冊となりました。

「よいことはすべて伝えたい」。

ちくちくの仕事、食のこと、体のこと、家仕事。

手にしていただければわかりますが、ユミさんが伝えたいことがぎっしりと詰め込まれた、内容の濃い本が出来上がりました。

画も文も、まさに、早川ユミという人にしか表現できない、素晴らしいものになりました。

いま出来上がった本を手にして、ユミさんの手書きの原稿を見た生の感動を、そのまま印刷に再現して、読者の皆さんに届けることができたのではないか、と思います。

この本が、小さなきっかけとなり、「つくること」の愉しさや、生きることの意味をもう一度見直して、

人が生き生きと生きる確かな手ごたえ、経済のものさしから、いのちのものさしへ。
ゆっくりとしたムーブメントへつながっていくことを 心から願います。


『種まきびとのものつくり』 出版記念のトークイベントが 12月19日に東京・青山の「青山ブックセンター」で行われるのでお知らせします。

本に未掲載の写真をスライドでご覧いただきながら、ユミさんのお話を伺います。

人にとって、暮すってなんだろう、買わない暮らし、手を信じて手を使って「つくる暮らし」をしてみようよ、と。
皆さんと一緒に考えたり話したりしたいと思います。

ぜひご参加ください。


○『種まきびとのものつくり』(アノニマ・スタジオ)刊行記念
早川ユミ×祥見知生トークショー 「種まきびとの暮らしから。暮らしの根っこを考える」

日時:2010年12月19日(日)13:00〜14:30(開場12:30〜)
会場:青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山
定員:120名様
入場料:700円


http://www.aoyamabc.co.jp/