TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

  五月のこの日に。お知らせを。

皆様、こんにちは。

久しぶりに、ゆっくりと、自分のPCの前に座っています。

5月11日。

震災から2ヶ月が経ちました。

今日は全国的に気温が低く、冷たい雨が降り続いているようですね。

時刻はもうすぐ18時です。部屋にひとり、いま、ため息をついてみました。

この机からは見えない場所なのですが、奥にあるキッチンで、いま、お湯を沸かしていて、
お湯が沸いたら、いただいた紅茶を入れて飲もうと思っているのです。

寒いので、温かい飲み物が飲みたいのです。

しかし・・・

一人でいると、そういう、普段何気なくやっている「温かいお茶を入れて飲む」ということさえも、

なんていうんでしょうね、 どうしようもなく、辛いというか、どうもしんみりとしてしまいます。

たぶん、皆さんも、そうではありませんか・・・。

きのう、福島では、立ち入り禁止の区域にお住まいの皆さんが、白い防護服に身をまとい、ご自宅へお戻りになりました。

テレビでは、その様子の映像が繰り返し流れていました。

今朝のワイドショーでも、その様子をくわしく伝えていました。

カメラも同行したのでしょう。

ごく一部の皆さんのご自宅が映し出されました。

台所とつながった畳の部屋で、コタツがありました。毛糸で編んだような布団、使い込まれた食器が映っていたように見えました。

ふだんの家の生活、団欒の様子が想像できました。

お茶を飲み、家族と一日あったことを、笑って話す。

日常です。ありふれた・・・。

しかし、福島の警戒地域では、いつ次に帰ることができるのか、その見通しは立っていません。

その無念さを ここで、たやすく言葉にすることなど できやしません。

震災から復興へ。

これからまた一ヶ月、一ヶ月・・・

一歩一歩。

日本人の粘り強さと勤勉さと、東北の皆さんの生きる力と、
きっと、大きな復興の花が咲いて、逆に日本中に力を与えてくれるのではないでしょうか。

そうであってほしいです。

福島の原発事故も、現場で、過酷な任務を遂行されている皆さんに、心からエールを送りたいのです。

一刻も早く、収束に向かっていくことを願っています。


・・・・・・・・・・・・・・・・

お湯が沸いたので、いったん離れて、紅茶を入れて戻ってきました。

紅茶でしたが、器は蕎麦猪口。石田誠さんの白磁です。

何気ない器なのですが、
かけがえのない器です。

こういう時間に、(つまり、家にひとりでいる時間、しかも、少々センチになっているようなとき)
ふだんから繰り返し使っている器の、なんて頼もしいことでしょう。

口当たりに違和感がないのです。

手にすんなりと馴染むことの、なんて、素晴らしいことでしょう。

これが、昨日今日の付き合いの器だと、そうはいかないのです。

新入りの器にはまだ心を許すことはできないのです。

まるで、人間と同じじゃないか・・・と

ふと、切に思います。

そんなことを、モノを言わない器が教えてくれる。励ましてくれているんですね。

これは単に器好きのわたしの、器との特異な関わりでしょうか・・・。

いえ、そうではないですよね。

器は心で感じるもの、なのですから。

今日も、何気なく、こいつ(と呼んでみたくなるような器なんですよ)は、私のそばにいてくれたのです。心憎いな・・と思ったりします。

温かな紅茶で、実際、冷えた心がほぐれつつあります。

被災地で不自由な生活をされている皆さんにとっても、一服のお茶の時間が、心癒す時間であってほしいと思います。

未曾有の震災を経験し、多くの悲しみを共有し、私たちがこの国に住む者として、
いま問われているのは、個人のとても小さな、あまりにも小さな、毎日、その日常との付き合い方なのかもしれません。
それは今まさに、自分の痛みとして、この一杯のお茶を飲む瞬間にも、忘れずに、心に刻むものとして。

・・・先日、打ち合わせでJRの主要駅の「エキナカ」でふと思いました。

改札のなかの駅ビルに、お惣菜のショーケースがきれいでした。 
緑鮮やかなサラダがプラスティックのパッケージに入れられ、照明が当てられて、並んでいました。まるでテイクアウトの雑貨のようでした。

近未来の風景のようでもありました。

電車に乗る人々が、手を伸ばしたら、買えるのです。

まるで、サプリメントを取り入れるみたいに。


でも、それでは何かが違うのです。 何かが激しく違うと思うのです。

その感覚を、わたしは、一瞬、頭のかたすみで 感じ、声をあげたいと思いました。

ここで、麻痺してはいけないのだ、と思いました。

何に? サテ、何にでしょうか?


そんな「何に?」の答えを、私は私なりに、仕事で 伝えていきたいと今、思っています。

これまで以上に、土の器と付き合っていきたいと願います。


最後になりましたが、

二つのお知らせです。

一年前からスタートしたイチカワヨウスケ君の新刊が もうすぐ発売になります。

『「なると屋+典座」の野菜をいただく』 主婦と生活社 5月27日発売です。

撮影は2ヶ月に一度行なわれ、すべての料理に対して、器を丁寧に選びました。

料理の盛り付けは一瞬のイチカワ君の手によるもの。通常の料理本は「あちこち箸で動かしてしまう」ことが多々あるようですが、

そういうことは一切していません。

料理が出来る前に、器を選び、そして、すばやく、盛り付け。

そして、すぐに、撮影をしていただく。一回の撮影で15品以上の料理の撮影をしました。

ライブそのものの緊張感ある現場でしたが、チームの誰もが充分に気持ちよく、それぞれの仕事を集中して行なってきた現場でした。

よい本になったと思います。

ぜひ、本屋さんで手にしてください。

とても自然に、季節と向き合いながら、「野菜をいただく」なると屋+典座の美味しさは こうして生まれると、感じていただけるのではと思います。

くわしいレシピ付きです。

NEARでは、この本の出版を記念して器展が行なわれます。 


イチカワヨウスケ新刊 『「なると屋+典座」の野菜をいただく』  出版記念展

2011年5月20日(金)〜5月30日(月)
12:00〜19:00 会期中5月24日(火)25日(水)休


出展作家

石田誠  尾形アツシ 小野哲平 田谷直子  村木雄児 吉村和美 


本書で使われた器たちを作り手の皆さんに作っていただきました。
一年間の撮影に使われた実際の器たちも展示します。器たちに会いにいらしてください。

くわしくは、うつわ祥見のホームページをご覧ください。→ http://www.utsuwa-shoken.com/event%20yasaiitadaku.html 


そして、もう一つ。お知らせです。

展覧会「TABERU」のサイトがオープンしました。

http://taberutaberu.com  

これから、このサイトでは、様々な方と一緒に「食べる」ことでつながっていきます。

ぜひ、温かく、見守ってください。

「TABERU」ライブのお知らせもしています。

このサイトについては、また詳しくお知らせしていきますね。

どうぞ宜しくお願いします。